大人が学ぶ 子どもが自分も相手も大切にできる性教育(8) 文・一般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬
画・ありお
『プライベートゾーンについて』
プライベートゾーンとは、口・胸・尻・性器といった、他者に勝手に触られたり見せたりしてはいけない部位を指します。これらは身体の内部につながっており、妊娠や生命に関わる特に大切な身体部位です。
プライベートゾーンを幼い子どもに教える時に一番分かりやすい表現としては、「水着で隠れるところと口」です。まずはこれらの部位が、他者に勝手に見られたり触られたりしてはいけないことを伝えましょう。
プライベートゾーンについて知ることは、勝手にキスをされたり、性器を触られたりといった、明らかな性暴力から自分の体を守ることにつながります。また、加害者にならないためにも必要です。
さらに、子どもの成長を見ながら伝えてほしいのが、「自分が触られたくないと感じるところ」もプライベートゾーンと同様の扱いをしてよいということです。例えば、腕に他人の手が触れてもあまり嫌悪を感じないという人でも、首や腰は触られたくないと感じることが少なくありません。触れられて不快と感じる箇所や度合いは個人差がありますし、相手との関係性によっても変わるでしょう。それらについて、自分で決めるということが大切なのです。
他者が触れることを許容できる範囲を意識することは、他人と自分の体の間に適切な境界線を引くことにもつながります。自分の体は自分のもので、相手が何の気なしに触っていいものではないし、他人が自分の体に触れたいと思っても、自分が触られて嫌だと思うなら、触らせなくていい。自分の大切なものを他人に侵害された時や、自分の気持ちが尊重されない時に、「嫌だと言っていい」と認識できることはとても重要です。
例えば、友達からおもちゃを「貸して」と言われた時に、貸してあげないことは優しくないと見られがちです。断る権利もあるはずなのに、「貸したくない」という思いは尊重されづらい状況が多々あります。同様に、体を触られて嫌がった時に、「それぐらいいいじゃん」「えっ、なんでそんなことで怒るの?」と、許容しないことで悪く言われてしまうこともあります。そんな時に、自分の体の扱いを自分で決めてよいという認識があれば、状況に流されず、自分の心地のよい距離感を相手に伝えることができます。
プライベートゾーンを教えるタイミングは、入浴時が最適です。体を洗う時は「ここは大事なところだからきれいにするね」と声をかけてから洗うことで、たとえ親であっても、自分の体の大事な部分は許可がないと触れないということを理解していきます。さらにお風呂の時間は、お父さん、お母さん、それぞれと入ることによって男女の身体的違いを教えられるゴールデンタイムでもあります。
子どもがプライベートゾーンを人前で触ってしまうこともありますよね。そんな時は例えば、こんな声かけはいかがでしょうか。
・自分だけが特殊ではないことを伝える→「興味を持つことは普通だよ」
・大切なことを伝える→「触る時は一人の時にしようね。清潔な手で触ろうね」
いきなり怒るのではなく、ぜひ会話で伝えてみてください。
それでも、いくら注意しても、周囲が嫌がっていても、自分の気持ちを優先してしまう子もいます。ある学童保育施設では、自慰行為をしてしまう子がいて、どんなに注意しても、やめてくれなかったそうです。そこで施設ではその子に専用の布団を用意し、他者から見えないところで行うことを約束するという案に着地しました。
自分が面白いと思っている気持ちを優先して性的な会話や行動を意図的にする子どももいれば、周りが嫌がっていることに気づかない子どもや、ついつい行為自体が癖になってしまっている子どももいます。その「やめられない」という気持ちや行為を「ダメ」と言って抑え込もうとするだけでなく、子どもに対して、短期的にはある程度の妥協案を提示し、長期的な関わりで社会的にふさわしい振る舞いを身につけられるように触れ合っていくという視点もあるとよいのではないでしょうか。
プロフィル
つるた・ななせ 1995年生まれ、静岡県出身。兵庫県尼崎市在住。日本で性教育を行うNPO法人でインターンをしたのち、文部科学省主催による留学促進キャンペーン「トビタテ留学ジャパン」の支援を受け、性教育を積極的に行う国の教育・医療・福祉などの施設を30カ所以上訪問。帰国後に「性教育の最初の1歩を届ける」ことを目指し、2019年に一般社団法人ソウレッジを設立した。「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2021 日本発『世界を変える30歳未満』30人」受賞。