大人が学ぶ 子どもが自分も相手も大切にできる性教育(1) 文・一般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬

画・一般社団法人ソウレッジ

『私と性教育』

みなさん初めまして、鶴田七瀬と申します。私は一般社団法人ソウレッジという会社の代表で、「性知識を知らなかった、できなかったで心が挫(くじ)けない社会をつくる」ことを目標に、性に関するさまざまな知識を社会に広める仕事をしております。

私が、性に関する活動を具体的に始めたのは2018年の1月ごろでした。その時に特別、「これがあったから性教育に関心を持ちました!」というような大きな出来事による意識変革があったわけではありません。幼い頃から「性」「ジェンダー」にまつわるモヤモヤの積み重ねがあり、大学3年生という将来の方向性を決めるタイミングで覚悟を決めていった、ということが行動の大前提にあります。

例えば、「ランドセルはなぜ性別で色が決まっているんだろう? 学校でルールを明確に決めているわけではないのに、空気がルールを作っているみたい。私は、ただ普通に赤いカバンか黒いカバンかで選んだら黒いカバンが好きなだけなのに」という、今思えば「ジェンダー規範」「ジェンダーロール」といわれるようなことに対して、幼稚園の頃から漠然とした疑問を感じていたのです。

他にも、女性として生きていたら珍しい出来事ではないのが、性にまつわるトラブルですが、私が最初に経験したのは、祖父母の家に遊びに行っていた中学2年生の時でした。犬の散歩で幅3メートルくらいの田んぼのあぜ道を歩いていると、すれ違った人が不審なほど距離感を詰めてきました。そして「おっぱい大きいね」と言って、胸に手を伸ばしてきたように見えました。私は怖くて走って逃げました。しかし、私が出てきた家の場所を把握していたのか、その人は先回りをして家の前で待っていました。

もし、この出来事が生活拠点である実家で起きていたらどんなに怖かったことか。通学する時も外出する時も家にいる時も、私の家と顔を知った不審者がどこかにいるかもしれないと気にして、盗撮やレイプ、家への侵入、連れ去りなどの不安を常に抱えながら生きていくことになっていたと思います。その結果、やや心配性な私の親は、普段の生活でも私の行動を制限し、近所の公園に行くにも、ましてや遠出、さまざまなチャレンジは「危ないからダメ」と言っていたことでしょう。

そして大学生になると、さらに「性にまつわる課題」を身近に感じる出来事がありました。私自身が大学の友人から性被害に遭いそうになったり、私の親友が何度も性被害に遭ったり、同じ大学の学生が子どもを出産し、そして赤子の死体を遺棄して逮捕されたりといった出来事がありました。

それ以外にも、言葉によるセクシュアルハラスメントなどは数えきれないほどありました。そのような、社会の中で女性として生きていく上でたくさんの出来事が積み重なり、「広義での性教育」に関心を持つようになりました。

性にまつわる話は特別なもののように感じられ、特に子どもからは遠ざけられてしまいがちですが、課題はすごく身近にあり、全ての人が知っておくべき知識であることを理解してほしいです。

※広義での性教育とは、包括的性教育(身体や生殖の仕組みだけでなく、人間関係や性の多様性、ジェンダー平等、幸福など幅広いテーマを含む教育)と包括的性教育に至るための環境作りに関わる全ての行為を指します

プロフィル

つるた・ななせ 1995年生まれ、静岡県出身。兵庫県尼崎市在住。日本で性教育を行うNPO法人でインターンをしたのち、文部科学省主催による留学促進キャンペーン「トビタテ留学ジャパン」の支援を受け、性教育を積極的に行う国の教育・医療・福祉などの施設を30カ所以上訪問。帰国後に「性教育の最初の1歩を届ける」ことを目指し、2019年に一般社団法人ソウレッジを設立した。「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2021 日本発『世界を変える30歳未満』30人」受賞。

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