現代を見つめて(72) 沖縄の光と影 文・石井光太(作家)
沖縄の光と影
五月十五日で、沖縄は本土復帰五十年を迎えた。
沖縄の那覇から車で四十~五十分行ったところにあるのが北中城村(きたなかぐすくそん)だ。ここは日本一の長寿の村として知られており、女性の平均寿命は八十九歳だ。
長寿の秘訣(ひけつ)は多岐にわたっている。村は一年を通して温和な気候であり、かつての水くみ場は菊や胡蝶蘭(こちょうらん)の咲く憩いの場となっている。高齢者はそこで地元の人たちと談笑し、家では家庭菜園で育てた野菜を食べる。
役場の職員はこう話していた。
「メディアは『常夏の楽園の長寿の村』みたいに取り上げてくれますが、村人はその理由がわかっていないのです。健康に気を使っているというより、昔ながらの慎(つつ)ましい食生活や、地元の温かな人間関係の中で、自然と心身に良い影響が出ているのだと思います」
他方、沖縄の本土復帰後に生まれた現役世代は、別の現実に直面している。本土に比べて発展の上で大きく後れを取ったばかりか、基地に依存した経済、ライフスタイルの激しい変化などによって多くの問題を抱えているのだ。
同職員の言葉である。
「高齢者と違い、沖縄の現役世代を取り巻く状況はとても厳しく、失業率、離婚率、母子世帯率、子供の相対貧困率は日本で最悪です。村の若者がそこから脱しようとしても、米軍基地の仕事以外に安定した職業はありません。今の長寿を実現している高齢者がいなくなった後は、生活習慣病によって一気に平均寿命が下がり、貧困を主因とした諸問題が、より顕在化することが予想されています。福祉に携わる立場としては、危機感しかありません」
なぜ一つの村でここまで大きな世代間格差が起きているのか。本土復帰から半世紀にわたって沖縄がさらされてきた厳しい現実が大きく影響していることは間違いない。
沖縄が抱える問題の大半は、本土との関係の中で引き起こされてきたことだ。だとしたら、本土の人こそが、こうした影に目を向け、改善しようとしない限り、問題はさらに膨らみ、いつしか日本全体の負担となって跳ね返ってくるはずだ。
プロフィル
いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。