利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(57) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

政治の浄化は達成されたか?

皆さまは衆議院総選挙の結果をどう感じられただろうか。

過去に疑惑のあった自民党幹事長が小選挙区で落選して役職を交代せざるを得なくなったように、幾人かの政治家の当落において政治倫理の影響が現れた。この点では個々の政治家の選挙結果には、国民の徳義感覚が発揮されたと言える。政治的浄化という観点からは喜ばしいことだ。

しかし、全体としてはクリーンな政治が実現したとは言いがたいだろう。投票率の低さや、僅差の小選挙区が多かったことを考えれば、前回(第56回)に指摘したような、選挙における不公正さ(選挙期間の短さなど)も影響したように思われる。

この結果はいずれ国民のもとに現れてくるが、なぜこうした結果になったのだろうか。今回は主として野党に焦点を置いて論じてみよう。

選挙協力の意義と既成政党への幻滅

今回の選挙は、立憲民主党と共産党などの野党4党が本格的に選挙協力を行い、小選挙区で統一候補を立てた点で画期的であり、選挙結果についての論評もこの点についてなされることが多い。緻密に分析してみると、幾つかの小選挙区で与党の有名な議員が落選しているように、この選挙協力の効果は絶大だった。もし、これがなければ与党の大勝と野党の惨敗になったはずだ。野党からすると、この点で、本格的選挙協力が未来に希望をつないだと言える。

それにもかかわらず、全体として野党4党が後退した理由は、野党第一党である立憲民主党が比例代表ブロックで十分な票を得られなかったからだ。前回に述べたように、小選挙区では戦略的投票も行われるが、比例代表ブロックでは自分がもっとも支持する政党に投票する人が多い。ここで票が伸びなかったということは、すなわちその政党への支持が足りなかったということに他ならない。

自由民主党が15議席減らし、立憲民主党が13議席減らしたのに対し、日本維新の会が30議席増やし、れいわ新選組が2議席増やした。つまり、第一党と第二党の議席が減少した分程度、後者の2政党の議席が増加したことになる。政治学の視角からは、この2党は「右翼的ポピュリズム」と「左翼的ポピュリズム」に相当する。

ポピュリズムは、既成政党や権益層(エスタブリッシュメント)を「彼ら」として攻撃し、新しい政治的様式を提示して「我ら」に対する支持を人々に訴える。「進歩的ポピュリズム」もあるから全て危険というわけではないものの、ポピュリズムの隆盛は既存の政治に不満を持つ人々が増加していることを示している。与党に失望した人々は、野党第一党にさほど期待せず、その票が左右のポピュリズムにかなり向かったわけである。

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