利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(57) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

理念再構築の必要性――道義と公共善の政治を求めて

権利の概念は、人々の自由を抑圧する暴政に対しては力を発揮する。安倍政権下の専断的姿勢に対して、この政党の主張がかなりの人々の共感を得たのはこのためだ。

ところが、コロナ禍においては、政府の不作為が最大の問題だった。あたかも日本の政治は感染症対策で機能停止したかのようになってしまったからこそ、コロナ禍が何度も拡大して多くの人々が死んだり苦しんだりしたのである。

この状況下では、政治の使命は、公共的な健康(公衆衛生=public healthの原義)という共通の善を実現すべく、感染症防止のために権力を最大限、迅速かつ有効に行使することだ。ところが、野党第一党にはそのような発想や理念が根本的に欠けており、そのためにコロナ対応策を積極的に訴えることができなかったのである。

要はリベラリズムは、専制というネガティブな政治を防止するための思想であるが、共通の善を実現するためのポジティブな政治の理念を欠いているのである。自由や民主主義を擁護するとともに、ポジティブな政治ビジョンを提示するのは、「コミュニタリアニズム」という思想であり、日本語で「徳義共生主義」である。

この観点からこそ、政治腐敗に対して倫理的な浄化を求めることができるし、感染症をはじめ人々の苦しみを除くような公共的な方策を政治の力によって実行することができる。選挙結果を顧みることによって、そういった善き政治的理念が現実政治において芽吹き、大きく成長していくことを願いたい。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。