現代を見つめて(65) 教育が未来をつくる 文・石井光太(作家)

教育が未来をつくる

アフガニスタンの政権がタリバンの手に渡った。タリバンは国内で一定の支持を得ている一方、女性の権利を剝奪(はくだつ)しかねないなど負の側面も懸念されている。

タリバン統治下になって間もなく、国内の主要都市で女性たちによる権利擁護の集会が開かれた。AFP通信によれば、参加者はこう述べたという。

「ブルカを着用する覚悟もあるが、私たちは女性が学校や仕事に行けることを望んでいる」

集会に参加すれば、タリバンに弾圧されかねない。なぜ女性は、命の危険を冒してまで、子供たちに教育を受ける機会を与えてほしいと訴えたのか。

それは、教育こそ社会の未来を支えるのに必要なものだからだ。

日本では学校教育は当たり前になりすぎており、近年は「無理してまで行く必要はない」と言われることもある。背景には、学校以外にも、フリースクールやNPOなど教養を身につける機関が多数用意されていることがあるだろう。

アフガニスタンでは異なる。学校がほぼ唯一の教養を身につける場所なのだ。そこへ行くからこそ、読み書きや計算ばかりでなく、公用語を覚え、人と交わる術(すべ)を学び、社会とは何かを知り、自分や国の未来を考えられるようになる。

逆に、学校へ行けなければ、女性は社会が何なのかもわからず、親の決めた結婚をし、古い伝統に従って家事や子育てに明け暮れなければならない。貧困に抗(あらが)うこともできず、意味のわからないまま紛争に巻き込まれ、時にはテロなどに利用される。それが政情不安定な国で「無知」を強要された者たちの宿命なのだ。

アフガニスタンで、女性が命を懸けて子供たちへの教育の必要性を呼びかけるのは、そのためだ。学校は、子供、社会、国、そして世界の未来を大きく左右するものなのだ。

ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさんはかつて国連演説でこう語った。

「無学、貧困、テロリズムと闘いましょう。本を手に取り、ペンを握りましょう。それが私たちにとってもっとも強い武器なのです。一人の子供、一人の教師、一冊の本、そして一本のペン、それで世界を変えられます。教育こそがただ一つの解決策です」

国際社会の一員として、教育の持つ無限の可能性を肯定したい。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。