現代を見つめて(52) 高齢者が働きやすい国 文・石井光太(作家)
高齢者が働きやすい国
九月の第三月曜日は、敬老の日だ。国は、本当に高齢者を敬っているだろうか。
日本は世界に類を見ない超高齢化社会を迎えており、十年後の二〇三〇年には人口の三分の一が六十五歳以上になる。これに伴って労働人口が減り、GDP(国内総生産)も大幅に下がる見通しだ。
日本政府はそれを補うべく、女性の社会進出、外国人労働者の受け入れ、AI(人工知能)の普及、そして高齢者の就労を促進している。これまで六十歳としてきた定年を六十五歳、あるいは七十歳に繰り上げ、さらにそれ以上の年齢でも就労できるよう企業に働きかけている。こうすれば、表向きは高齢化の時代の到来を遅らせ、GDPの減少にも歯止めをかけることができる。
一時代前に比べれば、たしかに高齢でも心身ともに若い人は多い。それまでに身につけたスキルを活かすような形で社会に残り、若い人に負けずに活躍できる人は少なくないだろう。だが反対に、高齢者の就労が当たり前になることで困る人も出てくる。引きこもりなど未就労の子供を養っている親は七十歳、七十五歳になっても仕事をし、一家の大黒柱としての役割を担わなければならない。病気の配偶者を抱えていれば、介護と仕事を同時にすることになる。病身を押して家族のために働き続ける人も出てくるだろう。
これからの日本で、高齢者を労働人口として取り込むことはやむをえないのかもしれない。だが、女性に社会進出を促した際、国は保育サービスの拡充、児童手当、学費支援など女性が働きやすい環境づくりをした。だとしたら、高齢者に対しても、「8050問題」への対策、老々介護の支援など、働きやすい環境を提供する必要がある。それなくして「働け」と言うだけでは、都合よく高齢者の基準を上げているだけと批判されても仕方ない。
国連は六十歳以上を高齢者として定めている。お年寄りは敬うべき存在だ。その人たちに社会で活躍してもらおうとするならば、日本はいち早く「高齢者が働きやすい国」を目指すべきではないだろうか。
プロフィル
いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。