バチカンから見た世界(73) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

「自由市場は社会正義を基盤とせよ」――ローマ教皇

世界経済の金融への偏重ぶりを「崇拝」と非難し、人間の労働に尊厳性を与え、社会の共通善を追求する実体経済への回帰を訴えるローマ教皇フランシスコ。イタリアの経済紙「イル・ソーレ・24オーレ」(9月7日付)のインタビュー記事の中で教皇は、「人間の尊厳性を守って(生産)活動を展開し、共通善を追求していくことは、企業にとっても良いことになる」と主張した。

さらに、「人間の活動と企業、人間の行動と企業の未来における相関関係」に言及。教皇パウロ六世の社会回勅「ポプロールム・プログレッシオ」(ラテン語で「諸国民の進歩」の意)を引用して、「発展は、ただ単なる経済成長に矮小(わいしょう)化されてはならない。真の発展は、包括的なものでなければならず、その意味するところは、人間一人ひとりを大切にした全体の発展でなければならない、ということ」と強調している。その上で、人間を経済から分離したり、発展が人類全体の文明から切り離されていくことを受け入れることはできないとし、一人ひとりの人間は人類という一つのグループであり、全ての人が恩恵を受ける経済の仕組みの必要性を訴えている。

また、経済が人間の活動である以上、その生産活動の目的や方法は吟味されなければならず、「経済活動は常に、倫理的行為でもある」と教皇は指摘する。「経済活動とその責任、正義と利益、富の生産と分配、生産活動と環境保全を共に果たしていくことは、長期的展望に立てば、企業の存在を保障する要素となる」との考えだ。ただ単なる利益の追求だけでは「企業は生き延びることはできない」という。

人類という視点や倫理といったことに加え、経済界は、世界で起きている経済以外のさまざまな状況に対しても「無関心であってはならない」と教皇は忠告する。特に、「経済人たちが、貧者の叫びに耳を傾けなくてはならなくなっている」として、「自由貿易の原則のみで、国際関係を維持していくことが困難になっている」との見解を示している。自由貿易の利点は、取り引きの相手が、それほど自らと格差のない経済能力を有しているときに顕著となるが、諸国間の経済的な条件があまりにも不平等になると、「自由」の名のもとに定められる価格が「悪質な効果をもたらすことになる」(「ポプロールム・プログレッシオ」)のだ。