バチカンから見た世界(73) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

インタビューの中で教皇は、「交易による経済活動は、自由競争の原則のみを基盤とすることはできない。なぜなら経済的独裁制を生む原因にもなり得るからだ」として、「交易の自由は、社会正義に従うものでなければ、平等であるとは言えない」という考えを明らかにしている。「社会正義に基づく」という原則を忘れると、自由貿易は歯止めが利かなくなり、「弱肉強食」の世界をもたらすというのが、教皇の大きな懸念だ。カネがカネを生む金融に偏重する経済がもたらすものは、莫大な富を手にするほんの一握りの資産家と、大量の難民、移民であり、富の偏在を改善していくことが必要であると説く。

教皇フランシスコは11月7日、バチカン広場での一般謁見(えっけん)の席上、「世界には、全ての人に基本的な善を保障するために必要な、十分な資源がある。にもかかわらず、多くの人々が困窮生活を送っている」と述べた。一方、資源が浪費されている現状を憂い、「世界は一つなのに! 人類は一つなのに! 世界の富は現在、一握りの人々の手中にあり、『貧困』と言うよりは『悲惨』『苦』と呼べる状況が、多くの人々に襲い掛かっている」と発した。

さらに、「世界には、飢餓が蔓延(まんえん)しているが、それは、食糧が足りないからではない」と訴える教皇。有利な立場にある人々が市場価格の安定のために「食料を投げ捨てている」とし、「われわれに欠けているのは、自由を基盤としながらも長期的展望に立ち、適正な生産と連帯を保障して、公平な富の分配を実現していく企業経営である」と語り掛けた。