『望めど、欲せず――ビジネスパーソンの心得帖』(12) 文・小倉広(経営コンサルタント)
求められることを好きになる
「好きを仕事にする」
「嫌いなことをやらない」
どうやら、そんな風潮が世の中の主流になっているようです。
まったくもって賛成です。しかし、大いなる誤解があるような気がしてなりません。
先の言葉は「好き=仕事」でありますが、その成り立ちには二種類あると思うのです。つまり、「好き」を「仕事」にする方法と、「仕事」を「好き」にする方法。どちらも順番が違うだけで、結果は同じです。私はどちらも、素晴らしいし、また、どちらも努力が必要だと思うのです。
いくら好きなことでも、それを仕事にするのは簡単ではありません。例えば、絵を描くのが好きで画家、イラストレーターになる。素晴らしいことですが、それだけで食べていくことは、狭き門です。しかし、好きならば努力が続く。そして、仮に結果がすぐに出なくても続けられる。だからこそ、このやり方は素晴らしい。ぜひチャレンジして頂きたい方法その1です。
方法その2は、ちょっと地味です。それは、今ある仕事や他者から求められる仕事を好きになる、という方法です。その1の逆ですね。これを「我慢して」やるのではありません。天から与えられた使命、神さまからのギフトとして心から喜んでやるのです。
例えば、私にとって、好きなことは、書くことです。お陰様で私はそれを仕事にできています。書籍も43冊出版し、こうして連載の仕事を頂けています。有り難いことです。
しかし、それだけではありません。私は「求められる仕事」を好きになるよう努力し、好きになりました。私にとって、それは講演や企業研修の仕事です。これは現在の私の収益の半分以上を支えてくれています。しかし、最初は、それが苦しかったのです。
ものを書くのが好きな人は、多くの場合、内向的です。私も御多分に洩(も)れず実は内向的です。外向的と誤解されることが多いのですが……。そんな私にとって講演や研修の講師は非常にストレスフルな仕事です。できれば、一日中家にこもって、ものを書いていたい。しかし、有り難いことに企業から求められ、さらには、高い評価を頂くことが多いのです。私は考えました。これは、神さまからの使命である。これを好きになることこそが、私が幸せに生きる道だ、と。
求められることとは、“できること”です。つまりCANとWANTとを重ねるのです。その際にWANTをCANへ寄せる努力が先の方法その1となる。そして、CANをWANTへ寄せていくのが方法その2です。どちらも等しく、素晴らしく、努力が必要です。
私のお勧めはこの二つを同時に行うこと。方法その1は、実らずとも夢や楽しみとしてチャレンジをし続ける。そして、同時に方法その2を実行する。それが、苦しまず、楽しく、仕事をしていくコツなのではないでしょうか。
プロフィル
おぐら・ひろし 小倉広事務所代表取締役。経営コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラーであり、現在、一般社団法人「人間塾」塾長も務める。青山学院大学卒業後、リクルートに入社し、その後、ソースネクスト常務などを経て現職。コンサルタントとしての長年の経験を基に、「コンセンサスビルディング」の技術を確立した。また、悩み深きビジネスパーソンを支えるメッセージをさまざまなメディアを通じて発信し続けている。『33歳からのルール』(明日香出版社)、『比べない生き方』(KKベストセラーズ)など多くの著書があり、近著に『アルフレッド・アドラー 一瞬で自分が変わる 100の言葉』(ダイヤモンド社)。