特集◆相模原事件から1年――私たちに突き付けられたものは?(4) ドキュメンタリー映画監督・森達也氏

この社会に存在する優生思想

――事件が私たちに突き付けているものとは?

事件の背景には、「優生思想」があると考えられます。ただ、気になるのは、この優生思想が特異な思想である、という前提で報じられていることです。実は、私たちの暮らしの中には、さまざまな場面に優生思想が見受けられます。

例えば、出生前診断もその一つです。近年は血液検査の精度が上がり、胎児の先天的な障害の有無を以前よりも容易に調べられるようになりました。検査結果によって、人工妊娠中絶を選択する人もいます。それぞれの事情がありますから、一概に善しあしを結論づけることはできませんが、障害の有無を調べていのちの選別をしているという事実から目を背けることはできません。死刑制度も、同じ論理です。犯人は、生きるに値しない罪を犯したから、この世界からデリート(消去)すべきである。そうした社会的な合意を法制化し、死刑を言い渡している。これも一定の価値で、いのちを選別し、抹消する行為にほかなりません。

優生思想は被告だけにあるわけではなく、私たちの中にもあり、社会に存在し続けているのは確かです。一人ひとりがいのちとどのように向き合うか、という課題を私たちに突き付けているように感じます。

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