佼成学園・監督対談 女子ハンドボール部石川監督×男子アメリカンフットボール部小林監督 『勝利に導く指導力』(前編)

チームワークが高まってこそ

――一人ひとりの部員を大切にすることで結束が強まるのですか?

同校の総合グラウンドで練習を重ねる「ロータス」の選手と小林監督

小林 苦い経験があります。「勝てるはずだ」と手応えを感じていたチームが勝つことができず、それで悩んで、一時期、体幹トレーニングや練習の量、食事の管理など、あらゆる取り組みを3年生の基準に設定し、ハードルをすごく高くしたんです。

すると、退部者が続出し、いくら説得を試みても次々に辞めていきました。辞める理由は大概、私が厳しすぎるか、3年生が怖すぎるかのどちらか。部員の半分が退部したその年も、結局、関東大会の決勝で負けてしまったのです。やはりそのような状態では絶対に勝たせてもらえないんだなと思いました。

3年前、選手たちが気持ちよくアメフットをできるために何が必要かということに主軸を置き、「決勝に出る」というこれまでの目標から、連覇を狙えるチームづくりへと方針を変えました。保護者の方々とも意思疎通を図り、昨年ようやく本当にいい形にまとまってきました。試合に負けるのは悔しいことですが、それよりも退部者を出すことの方が嫌なのです。入部を希望する生徒が来てくれることが、勝つことよりもうれしいことですから。

――チームを強化していくために意識していることはありますか?

石川 選手個々の成長は大切ですけれども、それと同時に、仲間同士で、互いの成長の助けになっていくチームワークが大事だと考えています。例えば、練習中に明らかに手を抜いている子がいるとして、その子に対して本気で注意ができるかどうか。私が言えば簡単なことかもしれませんが、選手が選手に対し、「チームのために頑張ってほしい」と伝え、思いを分かち合っていく。それがチームスポーツには重要です。そして、その子が頑張れるようになったら、それは周りの力のおかげであり、そのことを全員で理解し合えるチームづくりを目指しています。

小林 チーム力というのは、協同の力ですよね。仲間に対する思いやりの心、自分のことよりもまず第一にチームのために動く犠牲心、そして闘争心。この三つがなければ、勝負には勝ち続けられないと思います。

しかし、実際の勝負は、優勝チームを除けば、他の参加チームは基本的に試合に負けて終わります。最後に勝って終われるのは、全国で1チームしかないんです。負けて終わるチームが圧倒的に多いわけですから、負けを味わう選手の気持ちが分かるようにならないといけません。たとえ私たちのチームが勝利を収めたとしても、相手チームから「あんな奴らに負けたのか」と思われるようなチームにはしたくないのです。石川監督のお話を聞いていて、同じ思いだったなと感じました。

(後編に続く)

プロフィル

いしかわ・ひろかず 1964、年東京都生まれ。中学でハンドボールを始め、東海大学を卒業後、佼成学園女子高校体育科の教諭として入職した。92年、同校ハンドボール部の監督に就任し、全国大会でこれまでに6回の優勝を果たす。育成の手腕と実績を買われ、過去に女子ユース(U-18)日本代表のコーチや監督を務めた。今年、同校教頭に就任。

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こばやし・たかし 1968年、東京都生まれ。選手として、日本大学「フェニックス」黄金期RB(ランニングバック)として活躍し、社会人チームと対戦する日本選手権「ライスボウル」3連覇に貢献した。大学卒業後は社会人チーム・アサヒビールクラブ「シルバースター」に所属し、92年度、93年度の日本選手権で2連覇。母校である佼成学園の監督就任から23年目の昨年、「ロータス」を悲願の全国優勝に導いた。