絵が問う生きる意味――「無言館」で画学生たちの思いに触れる

画学生の絵が変えた 戦争への意識

無言館館主 窪島誠一郎

「無言館」という名前は、戦没画学生の絵を集めようと思った時から考えていました。少なくとも僕は、彼らの絵を前にして無言にならざるを得なかった。しかし同時に、彼らの絵は何も語らないで見る者の心に語りかけているとも思います 。

無言館には、ほかの美術館にない厳粛さ、命の圧のようなものがあります。画学生の“ひたむきさ”でしょうか。有名になるといった欲もなく、限られた時間を使って絵を、愛する人を描いた。そんな彼らの絵を、単に戦争を伝えるツールとして終わらせては申し訳ないと思います。今の若い人には、80年前の絵を見るというより、自分と同じような青春を生きていた人に出会う、そんな気持ちで見てほしいです。

僕は、高度経済成長期に飲み屋の経営で成功し、家族をもうけ、家を建てた。全部自分の努力と思っていました。しかし、画学生のご遺族に会い、彼らの絵と接して考えが変わりました。彼らの歴史がなければ日本の経済成長もなかったと気づいたのです。戦争で何百、何千万の人が亡くなったことを、日常で全く意識してこなかった自分が恥ずかしくなりました。

病気を相次いで経験し、自分の命の限界が分かった今、毎日をどう過ごそうかといつも必死です。彼らが限られた命の中で仕事に取り組む気分に、1ミリは近づいたのかもしれませんね。(談)

プロフィル

くぼしま・せいいちろう 1941年、東京都生まれ。印刷工、酒場経営などを経て、79年に信濃デッサン館(現・KAITA EPITAPH 残照館)設立。その後、画家の野見山暁治氏と共に戦没画学生の遺作を収集し、97年に無言館設立。著書に『無言館 戦没画学生たちの青春』(河出文庫)など。

一般財団法人 戦没画学生慰霊美術館 無言館
長野県上田市古安曽字山王山3462
TEL:0268-37-1650
【開館時間】9時~17時 ※最終入館は閉館30分前まで。火曜休館
【入館料】一般1000円 高・大学生・障がい者800円 小・中学生100円
https://mugonkan.jp/


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