核兵器禁止条約第1回締約国会議に参加して 神谷昌道ACRPシニアアドバイザーら代表団メンバーに聞く
「非人道性」と「核のリスク」に着目し、核の脅威の全体像と捉えることが重要
今回、締約国会議をはじめ三つのプログラムに出席し、新たな視点を得ることができました。私はこれまで、核兵器の廃絶や核軍縮に関する会議に参加する中で、核兵器が一度でも使用されたら人類にとって悲劇的な結末を迎えるという、「非人道性」に着目していたのですが、今回の各プログラムでは、非人道性のみならず、健康被害や天候不順、環境汚染、食料不足、社会インフラの崩壊といったさまざまな被害が世界規模で生じる「核のリスク」を、関連づけて考えなければいけないということが、データや統計など科学的知見に基づいて強調されていました。
私たち一般市民は、核兵器の使用は米国やロシアといった遠い国の出来事のように考えがちです。しかし、どこかの地域でひとたび核爆発が起きれば、その影響はグローバルな形で、人々の生活や命の存続に関わる切迫した問題が生じるのです。この非人道性と核のリスクを、核の脅威の全体像として捉えることがより重要だと実感しました。
また、オーストリア政府主催の会議でのことです。多くの政府関係者や科学者たちが一日かけて核兵器廃絶の重要性を科学的な視点で訴えた後、「やっぱり大事なのは対話である」と総括していました。一瞬、拍子抜けするようにも思いましたが、これはとても重要なことを示していると感じました。核兵器に対してさまざまな立場や考え方の国や人々がいる中で、いくら核の脅威や危険性を正当に訴えても現状を変えるのは非常に困難です。その相違を乗り越えて一つの共通した理解や利益を見いだすためには、やはり、違いを認めた上で対話を重ねるしかないのです。この理念はまさに、国際的な諸宗教ネットワークであるWCRPの根底にある精神と長年の取り組みに一致します。核兵器廃絶を実現するためのとても重要な哲学をWCRPが世界に示していけると、私は確信しました。
今回、一連のプログラムに参加し、核廃絶は道徳や倫理といった宗教的な側面のみならず、「あなたの生活をこれだけ脅かすことになる」と科学的な知見に基づく客観的な視点を踏まえ、より一層の啓発・教育活動に努めていくことが宗教者としての大きな責務だと感じています。また、今後の具体的な取り組みとしては、行動計画で盛り込まれ、まもなく設立されるであろう、戦争被爆者や核実験による被害者などを救済するための国際信託基金に資金を拠出することも考えられます。
1970年に京都で開かれたWCRPの第1回世界大会では、核軍縮・核廃絶が中心的な課題として取り上げられました。この核廃絶に対する取り組みは、いわばWCRP発足の原点とも言えます。日本委員会では政治家や科学者、NPO、NGOと連携しながら核兵器の廃絶に努めてきました。これからも日本委員会が有するあらゆる対話のチャンネルを、さらに広げていくことを通して、諸先達の願った核兵器のない世界の実現を一日も早く達成できるよう、より一層、努力していきます。