「発達障害啓発週間」特集 誤解や偏見をなくし、共に生きる社会へ(1)

相手のプラス面に目を向ける

――当事者または周囲が発達障害に気づくポイントはありますか

これは非常に難しいですね。ただ、発達障害の人は、先ほど述べたような症状や特徴が一つではなく、複数表れます。

発達障害の特徴(クリックで拡大)

私が診察する時には、60分から90分かけて患者さんの話をじっくり聞きます。現在の症状はもちろん、中学生や高校生の頃はどんな様子だったか。小学生や幼児期はどうだったか。発達障害の人は、成長過程でも生きづらさを感じ、大人になる頃にはさまざまな合併症を“重ね着”している状態になっています。今の表面的な症状だけを見て判断するのではなく、服を一枚一枚脱がすように、その人の人生をていねいに振り返ることが、発達障害の発見には大切です。

――星野先生ご自身も発達障害があると伺っています

そうなんです。私は、25歳で精神科医になり、勉強を進める中で、「これって自分のことじゃないか」と気づきました。私はいわゆる「のび太型」のADHDで、忘れ物も多く、整理整頓も苦手。大学生の時に一人暮らしをした際には、部屋がゴミの山でいっぱいになるなど、日々の生活がとても大変でした。そんな私がここまで生活してこられたのは、妻や親友など周囲のサポートのおかげ。幸いにして得意分野を仕事に生かせています。

現在の日本では、男性は周囲のサポートを得ながら、自らの得意分野で才能を発揮すれば問題ありません。しかし、女性は大変です。日中は仕事をし、家に帰ると家事や育児など、苦手に感じることもやらなければならない。女性の発達障害者は「自分は無責任でだらしがない」「家事もできないダメな女だ」と心が不安定になりがちで、うつ病を発症しやすくなります。

――周囲はどのように触れ合うことが大切ですか

発達障害者は、人口の約1割程度います。戦国時代の織田信長や幕末の坂本龍馬といった武士、ベートーベンやピカソといった芸術家などは皆、発達障害があったといわれ、特定の限られた分野では他の人がまねできないような才能を発揮します。

こうしたことを考えると、時代を進歩させるため、もしくは人類が滅びないように神さまがあらかじめ意図的に、ある才能に秀でた人を社会の大変革期(革命、戦争、大災害、ルネサンス、日本では戦国時代、幕末)に、人類に備えたのではないかと私は感じます。

現代社会では、まだまだ障害への理解が広まったとは言えません。ですからまず、障害について勉強し、深く理解することが大切です。

その上で、カウンセリングマインド(相手の立場に立ち、その人の考えや行動を共感的に理解しようとする態度)で話を聞き、できないこと(マイナス面)ではなく、得意なこと(プラス面)に目を向け、ちょっとしたことでもたくさん褒めてください。

全てのいのちは尊く、誰もが自らの能力を発揮できる生きやすい社会を作ることがとても大切です。一人ひとりがそう考えて、相手を理解し、触れ合ってほしいと願っています。

プロフィル

ほしの・よしひこ 児童精神科医。福島学院大学副学長。1947年、福島県会津若松市生まれ。福島県立医科大学医学部卒業、米・イエール大学への留学後、同医科大学助教授を経て、現在に至る。これまで一貫して発達障害や不登校などの研究・臨床に従事する。著書に、『発達障害に気づかない大人たち』(祥伝社新書)、『発達障害に気づかない母親たち』(PHP研究所)、『発達障害を見過ごされる子ども、認めない親』(幻冬舎新書)など多数。