特集・福島の現状と復興の展望 WCRP/RfP日本委「2019新春学習会」から
パネルディスカッションから
基調講演の後、今も東京電力福島第一原発の事故の影響を受ける福島県の人々の現状についてパネルディスカッションが行われた。
原発事故による県内外の避難者は現在、4万2615人に上る(2019年1月9日。同県調べ)。震災発生から間もなく8年を迎える同県や避難者の状況について、復興に携わってきた3氏がそれぞれの立場から問題提起した。
前島師は冒頭、WCRP/RfP日本委が実施してきた、慰霊式典や避難者の心のケアなどの支援活動を紹介した。その上で、さまざまな取り組みを通して「祈り」とは何かを深く考えたと説明。「『失われたいのち』への追悼と鎮魂」「『今を生きるいのち』への連帯」「『これからのいのち』への責任」という同委復興支援事業の方針に触れ、尊いいのちと向き合う大切さを宗教者が率先して伝える必要性を訴えた。
さらに、創造主である神から与えられた世界を守っていく責任を意味する「スチュワードシップ」という聖書の言葉を紹介。「全てのいのちにとっての“家”と言える豊かな地球環境を守るため、宗教者が自然に対する畏敬や感謝の大切さを自らの姿勢を通して示さねばならない」と語った。
小倉氏は、行政が早期の復興に向けてさまざまな施策を進める中、避難者のメンタルサポートなど個人に焦点を当てた支援が後回しにされてきたと説明した。特に、社会的に立場の弱い高齢女性は、誰にも悩みを打ち明けられず一人で悩み、うつ病を発症するケースもあったと訴えた。
そうした状況を改善するため、女性に限定した電話相談窓口の開設、幼い子供を持つ母親が集う場の開催など、「ウィメンズスペースふくしま」が取り組む支援活動の成果を報告。「安心して話をできる時間や場所があることで、避難生活を送る女性たちは自らを受容できるようになります。すると他者も尊重できるようになり、互いを支えるコミュニティーがつくられていく」と語った。
福島第一原発から約10キロに位置する浪江町出身の本田氏は、昨年3月に同町の一部で避難指示が解除されたものの、帰還者は約900人ほどで、その多くは高齢者であると説明した。
その上で、健康被害との関係は科学的に解明できていないが、低線量被曝(ひばく)のリスクを無視できない地域に子供たちが戻るべきかと問題提起。一方で、避難先でいじめに遭う子供たちが多くいると説明し、故郷が原発の近くにあるだけで差別を受けるなどあってはならないと強調した。
加えて、「放射線のことを考えると、気軽に帰ってこいなどと言えない」と話し、今も原発事故の影響を強く受ける福島の人々の真情を訴えた。
このほか、高齢者の震災関連死が増えている現状、市民が自発的に携わる復興支援活動などについて発言がなされた。