特集・福島の現状と復興の展望 WCRP/RfP日本委「2019新春学習会」から

被災者の目線に立った支援対策

福島市医療生協わたり病院 齋藤紀医師

齋藤氏

東京電力福島第一原発事故の発生以来、福島の中から“原発事故”を見つめてきました。私自身、ある意味で格闘し続けた8年だったと思います。

今回の原発事故の大きな特徴は、最大で16万人に及ぶ避難者が出たことです。日本の歴史上、これほどの避難が全国規模で生じたのは初めてだと思います。

避難指示地域からの避難家族のうち、約半数で家族分断が生じました。被災地では元々2世代、3世代、4世代が共に暮らす多世代家庭が多く、放射能の心配、居住スペースの確保などから全員一緒に移ることが困難だったからです。そして一度離散すると元の状態に戻るのは難しいのが現実です。避難によって仕事も失われました。双葉郡の避難者では事故6年後の時点で38%の人が職を失ったままです。農業従事者に至っては、その割合が63%にもなります。

食品汚染の問題で象徴的だったのが米の汚染です。放射性物質を米に移入させない努力が重ねられるとともに、できた米(玄米)について、放射能の全袋検査という気が遠くなるような取り組みも続けられました。その結果、2016年には全ての福島米が食品衛生法の基準値を下回りました。しかし、残念ですが、福島の米は今も消費者に敬遠される傾向にあるのです。

放射能の影響で将来、がんを発症したり、遺伝子の異常が世代を超えて続いたりするのではないかと心配する人が少なくありません。震災(原発事故)関連死や関連自殺も岩手、宮城両県よりかなり多い状況です。

こうした福島の現実を踏まえ、世界宗教者平和会議日本委員会の「フクシマコミュニティづくり支援プロジェクト」が2014年から始まりました。コミュニティーの再生・活性化の活動に財政支援をするもので、私も活動プランの選考委員として関わらせて頂きました。応募数は5年間で全国から約400件。そのうち250件が採用されました。

採用プランの内容は、交流の推進、伝統芸能の再建、放射能の測定、仮設住宅・復興公営住宅支援、子ども対策など実に多様です。個人史の作成、歌集の制作、ペット支援、ご婦人の美容支援など、「個」へのサポートも重視しました。広い意味で「集団」への支援を豊かにするものと思っています。仮設住宅や復興公営住宅の自治会が自ら提案してくださった活動も数多くありました。

本プロジェクトは2018年度でひとまず終了しますが、被災者支援に向けた市民の気持ちを支えるとともに、被災者の目線に立った多彩な支援策を結集できたのではないかと思います。プロジェクトには限界もありますが、今後の福島支援のあり方を考える上で貴重な素材となり得るものです。応募して頂いた全ての方々に心より感謝申し上げます。

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