豊かさを問い直す「原点回帰」の動きが各地で GNHシンポジウムから内山節氏の基調講演

「原点回帰」と言える、現代に起きている状況の一つに、コミュニティーをつくり、関係を結び合うことがありますが、日本の伝統社会における「構成員」は生きている人間だけではありません。恵みを与えてくれる自然や亡くなった人もまた、社会をつくっていると考えられてきました。

「死者は本当にいるのか」――、この点は日本と欧米では考え方が異なります。欧米では、実際にいれば、「いる」ということになるため、存在の証明が必要になります。ですから、キリスト教も、神さまの存在を証明しようとします。

これに対し、日本の神や仏は、存在を証明する必要がありません。なぜなら、日本の伝統的な考え方は、“関係しているから、いる”という発想に基づいているからです。死者があらかじめ存在しているのではなく、私たちが死者との結びつきを大事にして生きている限り、「死者は存在する」。現代でも、家族が亡くなると仏壇を買ったり、故人の写真を飾ったりして故人を大切にしますよね。ですから、死者といってもこの場合は、家族や知り合いなどを指します。

伝統的な日本には、「関係こそが全てをつくり出す」という発想があり、この中で、さまざまな“関係”を大切にしながら社会をつくってきました。これに対し、システムに支配された現代では、人が自ら関係をつくる世界は縮小し続けています。他(者)との関係性が希薄な人が増えているわけです。

するとどうなるか。多くの人がシステムに従っているだけで、他者との関係がないのですから、いつの間にか、「どこにも存在していない自分」に等しい状況が発生してしまうわけです。確かにここに暮らしている。毎日ご飯を食べているし、いる。けれど、ここで生きているという地道さがないと言いますか、実感がないわけです。そういう自分が見えてきて、「もっときちんとした関係をつくろう」とする人が大勢出てきたのでしょう。

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