豊かさを問い直す「原点回帰」の動きが各地で GNHシンポジウムから内山節氏の基調講演

2カ月ほど前、島根県の海士町(あまちょう)という、隠岐諸島の一つを訪ねました。その島は都会の若者が出入りしていることで有名です。若者たちは島でさまざまな地域おこしに取り組んでいます。

そこを歩いていて、ふと思ったのは、島で脚光を浴びるのは都会から来た若者たちだけれども、それを許している島の人たちがいるということです。若者と一緒になって活動する島民もいますし、それを見ている島民も、若者が自由に活動することだけは保証している。こうした2種類の島民が、都会から来た人の活動を後押ししているのです。

海士町は漁業が中心の岩山のような島です。小さな漁村集落が点在し、一つ一つの漁村の独立性が強いことが特徴です。島の人たちは大変保守的で、島の伝統を守ろうとしています。しかし、今の時代、ただぼんやりしていたのでは過疎化は進む。小さい村落はなくしても構わないかのような政策もとられています。

ですから、何とかして島を守っていかなければならない時に、一緒に健闘してくれる“仲間”として都会の若者をどんどん受け入れているのです。若者たちの取り組みは非常に革新的だけれども、島を変えたいのではなくて、むしろ昔からの島を守ろうとしているのです。

【次ページ:関係を結び合ってきた日本の伝統社会】