核廃絶に向けて 宗教の役割を考えるシンポジウム 上智大学で

『核兵器禁止条約と宗教の役割』
立正佼成会軍縮問題アドバイザー・神谷昌道氏

人間性の覚醒が欠かせない

昨年11月、バチカンで核廃絶に関する国際シンポジウムが開催された際、ローマ教皇フランシスコは参加者と面会され、次のような言葉を述べています。「核兵器を含めた兵器の近代化と開発は、国家に相当な犠牲を強いており、その結果、人類家族が直面する本来、優先すべき課題を二の次としている」。国連が「持続可能な開発目標」(SDGs)を掲げ、貧困の撲滅などに取り組む中、軍事費がその障壁になっているとの指摘であり、生命を冒とくする核兵器の問題を、経済的損失の視点から改めて示したのです。

立正佼成会軍縮問題アドバイザーの神谷氏

国際NGO「グローバル・ゼロ」は、全世界の核兵器を維持管理するために年間約1005億ドル(2010年)が支出されていると報告しています。国連の通常予算は、2年間で約54億ドル(2016、17年)ですから、国連の年間予算の37.2倍という莫大な予算が費やされていることになります。

これに対し、2010年、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)の世界の青年たちは、世界の約10%の軍事費を削減し、「ミレニアム開発目標」(MDGs)に振り向けようと訴える署名活動「ARMS DOWN! 共にすべてのいのちを守るためのキャンペーン」を展開し、2100万を超える署名が国連に届けられました。

核廃絶運動にも大きな関心を寄せたマーチン・ルーサー・キング牧師は、「原子爆弾そのものが危険を生み出すのではなく、(中略)利己心を爆発させる人間の心と魂に原子爆弾が委ねられていることが問題なのだ」との言葉を残しています。また、1978年の第1回国連軍縮特別総会で演説した本会の庭野日敬開祖は、当時の米ソ両首脳に向け、「危険をおかしてまで武装するよりも、むしろ平和のために危険をおかすべきである」と訴えました。

核軍縮がいかに複雑な問題であっても、究極的には、人間の心にその決断が委ねられていることが示されています。求められているのは、私たち一人ひとりの心の転換、つまり、「人間性の覚醒」です。

今、宗教者は核兵器廃絶の必要性を信徒に語り、そのプログラムを企画・実施することが求められます。核廃絶運動に取り組む市民団体との連携も必要です。一昨年から、長崎、広島の被爆者の方々が中心となり、「ヒバクシャ国際署名」が展開され、WCRP/RfP日本委員会は賛同を表明しました。「『北東アジア非核兵器地帯設立を求める宗教者声明』キャンペーン」が発足し、宗教者に参画を求めています。

今年3月、国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)とオランダの平和団体「PAX」は、「核兵器にお金を貸すな」プロジェクトとして、核兵器製造企業に投融資している金融機関を発表しました。こうした情報を基に、金融機関を選択する際、核兵器廃絶の意思を示すことができます。

核兵器廃絶のその先にある「戦争の防止」に向け、宗教者は歩み続けなければならないと思うのです。

【次ページ:浄土宗心光院住職 全日本仏教会事務総長 戸松義晴師】