庭野平和財団GNHシンポジウム特集2 哲学者の内山氏が基調講演(前編)

伝統と現代の組み合わせが新たな形に

このほか、社会ではさまざまな伝統回帰の動きが見受けられます。コミュニティー、共同体をつくろうと活動している市民がたくさんいる。昔の人たちは皆、共同体と共に生きていたから、その時代に戻ろうとしている。ただし、働き方も暮らし方も地域のあり方も変化していますから、昔の形をそっくりまねて戻ろうとすると、かえって戻れなくなる。だから、共同体と共に生きるという意味では伝統回帰であるけれども、それを実現しようとすると、現代的なコミュニティーの開始であり、現代的な共同体の形となります。

また、伝統に帰って、自然を守っていくために、もっと循環型の社会を志向していこうとなる。上野村では、用材に利用できない木をうまく使っています。それによって自然を守れるし、自分たちの地域のエネルギーを得ることになり、循環度の高い地域をつくることにつながるわけです。

かつての日本の社会は、江戸のような大都市は別として、各地域で循環度の高い仕組みがつくられていました。どこも地域にある資源をうまく循環させていたからこそで、それによって資源の発見も生まれるという、そういう歴史を持っていました。だから、考え方としては、あの時代に戻っていけばいいということでもある。

左から内山氏、納戸氏、細金氏

今、事業を起こす若い人たちの中には、金儲(もう)けを最大限に追求するのではなくて、「地域の人たちと共に」とか「地域の人のために」といった考えの人が多くいます。細金さんと納戸義彦さん(NPO法人「島の風」代表)も、より良い社会、地域、人間との関係、自然との関係を目指してビジネスをされていますが、これは「ソーシャルビジネス」と言われるものです。ソーシャルビジネスに取り組む人は今、日本中にいるのですが、これも日本の伝統への回帰と言えるでしょう。

元々、日本では、地域のために企業をつくるというのが主流でした。上野村でも、地域で発電していこうとしていますが、意外だったのは高齢の方たちが「やろう」と声を上げてくださったのです。実はその方たちからすると、「いや、昔は地域で電気をつくったんだ」と。「だから、割と簡単にできるよ」と言われるのです。日本の電力会社の歴史に目を向けると、各地域の資産家が共同出資し、地域電力会社を起こしたというのが出発点です。

【次ページ:水をくみ上げるためにつくられた日本の電力会社】