庭野平和財団GNHシンポジウム特集2 哲学者の内山氏が基調講演(前編)

『現代社会とパラダイムの転換――私たちはどこへ向かおうとしているのか』をテーマに10月18日、庭野平和財団の「第9回GNH(国民総幸福)シンポジウム」が開催された(ニュース既報)。この中で、NPO法人「森づくりフォーラム」代表理事で、哲学者の内山節氏が現代社会の状況と課題、さらに転換の兆しについて基調講演を行った。その内容の前半部分(要旨)を紹介する。

あなたはどっちを選ぶのか?

これから私たちが突きつけられるであろう話をします。
作物の収穫や山の木の伐採に使うハーベスタという機械があります。例えば、サトウキビは枝をつまんで、一定の長さで切るという作業を元々は手鎌で行っていましたが、それは大変だとして、今はハーベスタを使う人と、それでもなお、手鎌で刈る人がいます。サトウキビ刈りは大変な作業ですから、ハーベスタを使って効率良く作業することを否定するわけではありません。ただ、ハーベスタは高価であるためリースも多いのですが、その料金は安くはなく、しかもサトウキビはよい値段で売れるわけではありませんから、その中でハーベスタを使った作業の光景を見ていると、リース料金に追われながら、できるだけ短時間で仕事をしている姿が目に入ってくる。

これに対して、家族総出で作業を行っている人たちがいる。お孫さんも一緒ですが、彼らは手伝っているのか、遊んでいるのかは分かりませんが、とにかく家族が畑に出ている。お昼ごはんも、ビニールシートを敷いて皆でお弁当を食べている。ハーベスタの景色とは対照的に、家族で刈っている景色――お孫さんがいて、ご夫婦が働き、おじいちゃん、おばあちゃんも働いて家族で力を合わせている様子は、ある意味で幸せなものに見えるのです。

これから、多分私たちはこの二つの景色のうち、「あなたはどっちを選ぶのか?」という選択が突きつけられていく気がします。これは別にサトウキビ畑のことだけではなく、私たちを取り巻く世界の中で、ひたすら効率を追い求めるのか、幸せな景色を取り戻そうとするのかといった選択が、さまざまな場面で突きつけられるということです。

【次ページ:生活が便利になって得たもの、失ったもの】