庭野平和財団GNHシンポジウム特集2 哲学者の内山氏が基調講演(前編)

内山氏の暮らす群馬・上野村

生活が便利になって得たもの、失ったもの

細金剛さん(新潟・小千谷市若栃で活動する地域団体「わかとち未来会議」代表)は、古民家を改修して民宿をされています。人間は関係の中で生きているということが、よく分かる景色です。自然との関係、地域の人たちとの関係の中で生きているし、そこを訪ねてくる東京の若者もいる。しかも、そうした関係が、そこで暮らしている人たちの体と一緒になって、体の動きの中に内蔵されている。私たちはこういうものを失ってきました。さまざまな景色を見ながら、私たちは何を取り返していかなければならないのかという選択を、突きつけられているのだと思います。
いろいろな点で便利になり、そうした社会をつくってきましたが、同時に失ってきたものもあります。家族でサトウキビを刈る中に見受けられる幸せな瞬間、さまざまな関係の中で実感できる絆などです。一方、今、一つの傾向として、近代的な社会が失ったものを取り戻すという、「伝統回帰」と言える動きが広まっています。

僕のいる上野村(群馬県)は森林の多い所ですから、最近は、木を上手に使って生きていく取り組みとして、間伐によって切り出した用材に向かない木や、手入れによって出た枝などを使って木質のペレットを作っています。ペレットは、暖房や発電のための燃料になります。こうした活動に対して、「新しいことをしているのですね」と言われるのですが、村の住民は「いやいや、伝統回帰しようとしているのです」と言う。地域のエネルギーで暮らしていた、あの時代に戻ろうとしているわけです。

ただ、薪(まき)を使うといっても、当時とは違って生活や仕事に電気は欠かせませんから、新しい技術を使って発電することになりました。私たちがしていることは、地域エネルギー、上野村であれば薪を主体にした地域エネルギーで暮らしていく。昔の時代に戻っていくのですが、新しい方法も使うというところに、伝統回帰の姿があるように思います。

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