第34回庭野平和賞贈呈式 庭野日鑛名誉会長 挨拶

そもそも私どもは、あらゆるものとの無限の関連の中で生かされて、生きています。仏教では、それを「縁起」といい、単なる「個人のいのち」という捉え方を超えて、全てが「大いなる一つのいのち」であることを教えています。それは、自他一体ということであり、本来は皆が、兄弟姉妹であるということであります。同時に、私どもは、世界でただ一人の、他と代わることのできない尊厳なる存在であります。そして、神仏に授かった尊いいのちを、いま一人ひとりが懸命に生きているのであります。

ユナン師の「他者の中に神の顔を見る」という言葉は、こうした仏教の見方とも、根底で相通ずるものがあり、深く共感し、敬意を抱く次第であります。すでに皆さまもお気づきのように、ユナン師は、大変柔和なお顔をされています。誰に対しても、どのような場面でも、変わることがないものと思います。

ユナン師ご自身、「常に穏健を心がけてきた」とおっしゃっています。しかし、ユナン師のおっしゃる穏健とは、単に穏やかな言動を心がけることとは、異なるように思えます。いま申し上げた常不軽菩薩のように、どのような困難にも屈することなく、全ての人々に対して合掌・礼拝するという、優しさと気魄(きはく)を内に秘めた態度であります。言い換えれば、真の寛容の精神から生まれる穏やかさではないでしょうか。

混迷する状況の中で、どちらか一方の立場に偏ることなく、双方を尊重し、全ての人に愛を注いでいくことは、実は大変に難しく、勇気のいることであります。中東だけでなく、日本もまた、近隣諸国とのいろいろな問題を抱えています。一部には、感情的かつ強硬な態度も見られます。そのような中、ユナン師の精神と行動は、私ども日本人に、極めて重要な示唆を与えてくださっているように思えます。

本日の贈呈式を契機として、ユナン師の願いと行動を、より多くの人々が共有することを期待し、またユナン師がご健康で、これまで同様にご活躍くださることを祈念して、挨拶(あいさつ)と致します。ありがとうございました。

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