「社会正義、AIと人間関係、多様性のうちでの一致を説いて――教皇のシンガポール訪問」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

社会正義、AIと人間関係、多様性のうちでの一致を説いて――教皇のシンガポール訪問

インドネシア、パプアニューギニア、東ティモールを歴訪したローマ教皇フランシスコは9月12日、シンガポールを訪れた。歓迎式典の後、ターマン・シャンムガラトナム大統領、ローレンス・ウォン首相との会見を終えた教皇は、同国の政府関係者、市民社会の代表者、外交団に対してスピーチした。

この中で、教皇は、自身のシンガポール訪問のビジョンを提示し、「海面にそそり立つ高層ビル群」のような印象を与える同国の、開発途上国から高度成長国家への発展は、「理知的決断の結果であり、偶然ではなかった」と評価。それを可能とした、建国の父であるリー・クアンユー首相(在任期間=1959~90年)の功績をたたえた。その上で、この経済発展のプロセスにおいて、同国が「公共住宅政策、高い教育水準、機能する医療制度」などを通し、「社会正義と共通善(公共の利益)に配慮する社会の構築」に努めたと述べ、これらを促進する政策による成果を全国民が享受できるようにと願った。

しかし、「一定の実用・効率主義の高揚」が往々にして、真意の結果でないとしても、発展の恩恵を享受できず社会の底辺であえぐ人々の排除を正当化しかねない危険性を持つと警告。この視点から、政府の推進する「より弱き者」を対象とする政策やイニシアチブを認知、称賛し、「特に、貧者、苦労して国家の土台を構築していった高齢者への配慮と、現在の社会構築に大きく貢献する移民労働者の尊厳性の擁護、正当な対価の支給」を要請した。

科学技術的にも高度な成長を遂げるシンガポール社会では、デジタル時代の複雑な技術発展や人工知能(AI)使用が急速に進むが、教皇は「現実的、具体的な人間関係を深めることを忘れてはならない」と戒め、「虚構で触ることのできない(デジタル)世界に自己を孤立させる危険性」について警鐘を鳴らした。

さらに、シンガポールが、インドネシアと同じく「諸民族、諸文化、諸宗教が調和のうちに共存するモザイク(多様性)を持つ」と述べ、全国民と建設的な対話を展開する公平さによって公共(政治)権力が促進され、国民それぞれが共通善の実現に貢献するのを可能とすることで、「過激主義や不寛容が勢力を増し、社会平和を危険に陥れないよう阻止している」と指摘した。また、カトリック教会も、「キリストの福音の精神に沿い、教育や医療の分野で独自の貢献をしていく」「正義にかない、平和社会の建設基盤である開かれた相互尊敬の精神を基とし、諸宗教との対話と協力を間断なく推進する」と約束した。

加えて、教皇は、「国際秩序の中で果たすシンガポール独自の貢献」にも言及し、同国が「分かち合われた規則を基盤とする多国間主義」を促進した功績を挙げ、「人類の一致、友愛の構築に向けた努力を継続していくように」と励ました。

最後に、「われわれの生きる環境危機」に話題を移し、シンガポールのような高度に成長した社会は、「資本、技術、(人間の)才能へのアクセスを提供できる」「私たちに共通する家(地球)の擁護を可能とする」と述べた。同国の「持続的な発展と創造(環境)の保護」に対する努力をたたえ、責任感と、受容的な友愛の精神に沿い、人類が調和のうちに協調できることを示す輝かしい模範であると述べ、「この道を歩み続けるように」と伝えてスピーチを結んだ。

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