『ホンジュラスで輝く人々』をテーマに AMDA-MINDSの山田氏と定住旅行家のERIKO氏がトーク

子供の時に「自分を愛すること」を身につける そこから全てが始まる

司会 さて、ここで会場から質問を頂きます。

――中学校の教員をしています。中学2年になると、海外のことに関する「調べ学習」があるのですが、生徒の多くは、アメリカやイギリス、スペインといった国に憧れを持っているみたいで、そういう国ばかりを調べがちです。今後は、いろいろな国を提案できればと考えています。ホンジュラスの教育事情について、さらに、日本の子供たちが伸び伸びと意欲を持って学習に臨めるように、海外の教育で参考になる例があれば教えてください。

会場の質問を受け、トークは進んだ

山田 教育制度一般について、それほど詳しくないのですが、ホンジュラスでは小・中学校は義務教育で、無料で受けられます。しかし、日本と違うのは、教科書は買わなくてはなりません。ですから、「それすらも厳しいのです」という家庭は多いですね。高校も公立は無料ですが、教科書は買う必要があります。今では、ほとんどの人が小学6年生まで終えていますが、少数とはいえ、とても貧しい家庭の子はそれも終えることができません。

また、ホンジュラスの恵まれていない部分として、人的リソースが少なく、教える人が足りないという事情があります。そのため、一般的には朝、昼、夜に分かれていて、朝に学校に通う子、昼の子、夜の子という形で教室をフル稼働しているのが実情です。この点、日本は恵まれていたのだなと思いました。私の世代は教室に40人、50人が詰め込まれていましたが、それでも、やはり日本の義務教育は良かったのだと感じています。

ホンジュラスに長く居ることで、日本の良い部分を感じることがあります。例えば、日本の詰め込み教育が批判され、それが個性をつぶしていると言われることもありますが、歴史や理科など、基礎となる知識を詰め込まれたのは良かったと思っています。一方、ホンジュラスはアメリカの影響も受けていますので、授業の中で、生徒同士が意見を話し合うことが取り入れられてもいます。

ERIKO 外国を訪ねると、学校に必ず行くようにしています。私は途上国に行くことが圧倒的に多いのですが、日本の子供たちとの大きな違いは、学校へのまなざしです。学校を有り難い場所だと思っているかどうかという点が全く違うんですね。途上国の子供たちは、教育を受けることができること自体を大きな喜びとして感じているので、先生が発する一言、一言にとてもよく反応し、自分の意見を言うことも多く、また楽しそうにノートを取る姿をよく目にします。

日本では、教育を受けることが当たり前になっているので、この点は全然違うと思いますね。中には、6時間かけて登下校する子もいますが、それでも、学校や教育に対する楽しむ姿勢とか、有り難く思う姿勢が日本とは違うなと感じます。

一方、教育に関して、私が訪問した国で印象に残っているのはフィンランドです。フィンランドは、世界で学力が最も高い国として知られています。私は中学校を訪問させて頂いたのですが、生徒の様子だけでなく、実は先生のあり方が違うんです。フィンランドで教師になることはとても難しく、大学院を修了した後に、かなり難関の試験に合格しないとなることはできません。ですから、「学校の先生」という仕事は、皆の憧れになっています。

先生はかなり努力をしなければなりませんが、そのほか、目についたのは、職員室に行くと、全ての机が円卓になっているんですね。感動したのは、全部の授業がどの教室で行われているかが表示されていて、全然違う授業を受け持つ先生でも、例えば歴史の授業で、今日は日本について教えるとなっていたら、家庭科の先生が、日本食を作る授業にするとか、そういうように調整していって、学校全体で連携を取ることができる仕組みで教育がなされているんですよ。

また、子供たちは完全に自由で、もちろん校則などはないですし、宿題もありません。テストもありません。夏休みは2~3カ月ぐらいと長くて、とにかく遊ばせるようにするんですね。ただ、学力は世界一なのです。

私が、その学校の先生に「教育の中で最も大事なことは何ですか?」と伺うと、フィンランドの人口は500万人ほどなので、一人ひとりの頭脳が国の財産と思われているため、教育はものすごく熱心になされるとのことでした。その中で、最も大切な教育は、幼稚園や保育園であり、小学校、中学校、高校、大学を含めた教育全体で、幼稚園・保育園が最も難しい教育といわれています。その幼稚園や保育園で何をするかというと、自分を愛する心をまず育むんです。これは、キリスト教のルーテル派の精神にのっとっているのですが、何よりもこのことに重点が置かれます。この年代の時に、フィンランドでは読み書きは絶対にさせません。それよりも、自分を愛する心を育むという教育を徹底的に行います。とにかく、自分を愛する人間になることを大事にして、子供たちがそれを身につけていくと、小学校や中学校に行っても、いじめがありません。その理由は、自分はありのままの自分でいいし、人は自分と違うと同時に愛すべき存在であるとの認識が子供たちに宿っているからです。

フィンランドの子供たちは、相手を攻撃する、非難するという心が育っていないんですね。私がその先生から言われたのは、「小学校も中学校ももちろん大切だけれども、最初の教育で基礎がしっかりなされることが大事で、それによって皆が学びを楽しむことができる」ということでした。