TKWO――音楽とともにある人生♪ クラリネット・太田友香さん Vol.2
練習は技術を磨き、心を高める
――毎日の練習は、つらくはないのですか
練習がつらいとは思いません。私は音楽が大好きですし、クラリネットにはとても愛着があるので、もっとうまくなりたいという気持ちは初めて楽器を手にした時から同じです。ただ、演奏を生業(なりわい)にすると決めてから、練習に対する姿勢は変わっていきました。中高生の頃は、練習を通じてどんどん技術を吸収して体に染み込ませていくイメージでした。もちろん、音楽的に高度な要求に応えるには、技術の向上は欠かせません。ただ、今はどちらかと言えば、習得した技術のレベルを保つために練習する、という意識の方が強いですね。
そう思うようになったのは、大学に入って間もなくの頃でした。ある先生が新入生に向けたアドバイスとして「12時間以上楽器に触れない時間をつくらないように。練習量が財産だ」とおっしゃったことがきっかけです。私はその言葉を守り、授業が休みの日も学校に行って、朝から晩まで練習していました。練習によって、それまでできなかったことができるようになる喜びを感じる半面、今度は、「今日できたことが、明日になったらできなくなるのでは?」という怖さも抱くようになりました。私たち演奏家の間ではよく、「口が忘れてしまう」と言うのですが、楽器を吹かないでいると、その間に習得した技術が体からすっぽりと抜け出てしまうような気がして、不安でたまらなくなるのです。だから、口が忘れないように、毎日毎日練習するのです。先輩たちからはよく、「練習量が物を言うから」と励まされましたが、その本当の意味は、「不安を払拭(ふっしょく)できるのは練習だけ」ということだったと受けとめています。練習は、技術を磨くだけでなく、精神的な支えにもなるのです。
――音楽を通じて喜びや楽しさを感じるのはどんな時ですか
特に演奏をしていて楽しいと感じるのは、音楽で“会話”をしている時です。佼成ウインドで最も人数の多いパートはクラリネットで、ステージでの演奏が熱を帯びてくると、声に出すわけではないのに、誰かが「ここで曲を盛り上げていくぞ!」と号令を掛けたかのように、みんなの集中力が一気に高まる場面があります。その時に音楽で会話をしているような感覚になるのです。一人ひとりの音が合図のない号令によって緩やかに集まり、一つの太い音色の束となって客席に届くようなイメージというのでしょうか。互いの心が通じて音が絶妙に合った時は気持ちが良く、何とも言えない充実感に包まれます。
このような演奏ができた時は、普段以上に自分の力を出し切ったと感じます。その演奏に対して、お客さまが満足げな笑みをたたえてステージに拍手を送ってくださる姿を見ると、〈今日の本番、良かったな、幸せだな〉と思えるのです。音楽家で良かったと感じるひとときですね。頻繁に体験できるものではありませんが、ステージ上でしか味わえないこの一瞬にまた出合いたいと思うと、力が湧きます。
プロフィル
おおた・ゆか 1985年、茨城・常陸太田市生まれ。2007年に昭和音楽大学を首席で卒業し、東京佼成ウインドオーケストラに入団した。これまでにクラリネットを笠倉里夏、関口仁、堀川豊彦、野田祐介、室内楽を太田茂の各氏に師事。第8回日本クラリネットコンクール第3位、第30回日本管打楽器コンクール クラリネット部門第2位。現在、昭和音楽大学で講師を務める。