TKWO――音楽とともにある人生♪ 指揮・大井剛史さん Vol.1

日本トップレベルの吹奏楽団として知られる東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)。今年、創立60周年を迎えた。節目の年であるインタビューは、TKWO正指揮者の大井剛史さんがトップバッター。Vol.1では、指揮者の役割や、大井さん自身が指揮者として大切にしていることを聞いた。

言葉のない会話を大切に

――吹奏楽での指揮者の役割とは?

オーケストラや合唱の指揮と、吹奏楽の指揮とでは、基本的には違いがなく、簡単に言うと、演奏のまとめ役というのが指揮者の役割になります。指揮者は楽譜から、「作曲者が表現したかった音楽はこうだろう」とその意図を読み取り、自分なりに頭の中に描きます。それを奏者の皆さんに伝えるとともに、奏者の皆さんもそれぞれに楽譜から読み取っているので、その考えを受けとめ、融合させて、お客さまに提供します。

奏者と一緒に曲について理解を深め合って演奏をつくっていく上でのコミュニケーションは、もちろん、実際に言葉でのやりとりもありますが、より大切なのは言葉を使わない演奏を通しての“会話”ですね。奏者は音で考えを表現し、僕は音を出さないものの、指揮棒をはじめ指先や腕、目線、さらに身体の動きで考えていることを表して、言葉のない会話をするのです。言葉よりも大切というのは、音楽は当然、音で表現しますので、言葉だけで伝えてしまうと、それぞれの受け取り方が違いますから、正確に伝わらなかったり、誤解させてしまったりすることがあるからです。実際に音を出して、演奏の中でコミュニケーションを取ることが大切です。

――指揮者として大事にしていることは?

偏らないようにバランスを取り、「ニュートラルである」ということですかね。奏者は、指揮台に立っている人間に影響を受けます。指揮者がナーバスな時に、奏者たちが楽しそうにはつらつと演奏するといったことはありません。指揮者は奏者に、心理的にも、表現的にもさまざまな影響を及ぼし、最終的に、それが、演奏という形で出てきます。

指揮者によって、さまざまな考えがありますが、強烈な個性を指揮台から醸し出すことにこだわる人が多いように思います。そういう人は自分の存在感を強調し、演奏を自分色に染めようとします。それによって、奏者が指揮者にひきつけられ、良い音楽がで出来上がることもあります。

僕のスタンスはあくまで、僕の個性に偏らずに、まっさらな状態で音楽に向き合う。これが、僕の申し上げている「ニュートラル」ということです。

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