TKWO――音楽とともにある人生♪ パーカッション・渡辺壮さん Vol.3

長年、フリーランスの演奏家として活動を続け、昨年、東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)の一員となった打楽器奏者の渡辺壮さん。最終回では、演奏家を続ける中で感じる喜び、そして、吹奏楽ファンに向けたメッセージを伺った。

感動する場面に巡り合う

――渡辺さんが演奏家を続けてきた原動力は何ですか?

音楽が好きでしたし、合奏するのが楽しかったからですね。打楽器にはソロパートもありますけど、基本的に一人で舞台に立つことはありません。アンサンブル(合奏)でも、オーケストラでも、誰かと一緒にステージに立ち、皆で一つの音楽をつくり上げていく楽しみが一番大きいと思います。もう一つは、私自身が凝り性で、感動する演奏に出合うと同時に、何でこんな音が出せるのだろうと思い、突き詰めて考えていくのが好きだからです。この「突き詰めていくこと」がつらくなり、悩んでしまう人もいるかと思うのですが、私の場合は幸運なことに、楽しみとして受けとめることができた。そのことが、音楽を続ける上では大きかったと思います。

あと、人が演奏するのを聴いて感動することも素晴らしいのですが、演奏する側が感動させられる場面に巡り合えると、演奏家でよかったなあと感じます。今年5月、福島県白河市で行った公演でもそうした場面がありました。

公演のアンコールで、過去に全日本吹奏楽コンクール課題曲となった2曲を披露したのですが、指揮を務める飯森範親さんが曲を紹介したその時、観客席に座っていた女性のお客さまが、涙ぐむほどに喜ぶ表情が私の目に飛び込んできました。この方はきっと、元吹奏楽部員で、その曲を演奏したことがあったのでしょう。演奏中も柔らかな表情で聴かれていて、こちらもうれしくなりました。佼成ウインドの演奏会では、時々このような光景に巡り合うことがあります。人の心が動く姿を目の当たりにできるというのは、演奏家としてこれ以上ない幸せを感じる瞬間です。演奏しながらこちらがグッとくるんです。

――演奏家として、今、渡辺さんが大事にしていることは?

音楽に対して謙虚であること、そして、音楽へのリスペクト(敬意)を忘れないことです。私がうまく演奏できなかったと思う時は大抵、準備段階で、「こんなもんだろう」とおごりがある時です。むしろ、本番を迎えるのが不安な時の方が、終わった時に充実感があることが多く、その経験からステージで音を出し、幕が下りる最後まで、常に集中力を切らさず音楽と向き合おうと注意しています。怠けたり、過信したりすると、集中力が途切れ、結果が伴わないことが多いのです。忙しさにかまけてそうなってしまわないよう、自分を戒めながらやっています。

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