TKWO――音楽とともにある人生♪ パーカッション・渡辺壮さん Vol.1

目立つ音を奏でるからこそ

――大物打楽器でも、銅鑼やシンバルを奏でる時は、観客の注目を浴びる一瞬だと思うのですが、その一打を鳴らす時は、どのような気持ちですか?

それは、もう、ドキドキしますよ。目立ちますからね。タイミングがずれて失敗しようものなら、団員にも観客にも、そのミスがすぐにばれてしまいます。ステージ上には逃げ場もないですし(笑)。まあ、これは冗談として、なぜ緊張するかというと、銅羅やシンバルなど、いくら目立つ音でも、作曲者の意図や演奏全体の雰囲気を外れて私の音だけが突出してしまうのは一番まずいことだからです。

それぞれの楽器が繊細な音色でアンサンブルをつくり上げているのに、例えば、演奏の最後に銅鑼を一打で鳴らす場面で、全く場違いな音を出したら、それまで全員でつくってきた音楽を一瞬にしてぶち壊してしまいますからね。こうした時、私のイメージでは、他の楽器が構築しているサウンドの邪魔にならないよう、各楽器の音の隙間に自分の音を差し込むような感覚で演奏しています。

――渡辺さんが入団して1年。楽団員になる前と後で、演奏家として変化したことはありますか?

入団前の約8年間、私は佼成ウインドにエキストラで呼んでもらって演奏してきましたから、正直なところ、大きく変わったことはありません。立場が違っても、ステージで演奏する以上、練習から本番を迎えるまでの準備、音楽との向き合い方は変わるものではありませんから。

私自身、演奏の流れなどを確認する際は、言葉でやりとりするよりも、一緒に音を出しながら、互いの意図をくみ取っていく“音による会話”が大事だと思っています。その点で言うと、練習や本番を通じて音で会話する機会が増え、団員になったことにより、音楽以外の場面でも皆さんと言葉を交わすことも多くなったので、距離は日ごとに縮まっていると思います。コミュニケーションを頻繁に取って理解し合うことが、私自身の演奏に良い影響をもたらしているのは確かです。

プロフィル

わたなべ・そう 1972年、茨城・日立市に生まれる。武蔵野音楽大学を卒業後、愛知県立芸術大学大学院を経て、ドイツ・ミュンヘンのR・シュトラウス音楽院に進んだ。その後、アウグスブルク市立歌劇場オーケストラで研修生として研鑽(けんさん)を積み、帰国後はフリーの演奏家としてオーケストラを中心に活動。2018年に東京佼成ウインドオーケストラに入団した。