TKWO――音楽とともにある人生♪ テナー・サクソフォン・松井宏幸さん Vol.3
“リーゼント”の大事な役割
――トレードマークのリーゼントも、個性の一つですね。これはいつから?
「カルテット・スピリタス」を組んだ時からです。高校に入学した当初もこの髪形でしたけど、学校の風紀が厳しかったのと、やんちゃな先輩から、調子に乗っていると因縁をつけられたことがあって、おとなしい髪形に戻したことがありました。この時は、部活のホルンの先輩が助けてくれて、何事もなかったんですけどね。その話はさておき、この髪形は目立つので、一目見ただけで覚えてもらえることが多いのですが、これって、演奏家として、とても大事なことだと思っています。
演奏会の後、衣装は燕尾(えんび)服から私服に着替えますが、髪形は本番のままバッチリセットで歩いていると、当日聴きに来てくださった方が、私が団員の松井であると気づいて、気さくに声を掛けてくれるんです。うれしいですね。少しでも、佼成ウインドに親しみを感じて、サクソフォン奏者・松井宏幸を覚えて帰ってもらえる。このリーゼントにも、大事な役割があるんです(笑)。
――最後に、演奏家になることを夢見る学生に向けてメッセージを
高校時代の私は、寝ても覚めても、普門館で演奏することしか考えていなかったですし、学校で、授業中もずっとスコアを見て、自分がうまくなるために必要なことは何かと思いを巡らせたり、部活の練習メニューを考えたりしていました。当時、自分にとってはそれが人生の全てでしたから。後先考えず、目の前のことに没頭し、それを大人になるまで続けた結果、今、演奏家という仕事に就くことができたと思っています。だから、自分の好きなものを見つけて、突き詰めていく。本当に好きであるなら、そのことを大切にしてください。
そのためには、極論かもしれませんが、あれこれ考えず、まずやってみることが大事なのではないでしょうか。人は皆、失敗したくないですし、痛い目に遭うのは極力避けたいと考えますから、リスクとリターンを天秤(てんびん)にかけて、挑戦するよりも、しないほうが安全だと判断することがあるかもしれません。でも、よくよく考えてみると、チャレンジしなければ、失敗はしませんが、成功することもありません。
その点、プロの演奏家になった人は、私も含め、諦めの悪い人だと思うんです。演奏が上手で、天才と言われるような人でも、家庭の事情で楽器をやめてしまったり、成功する確証のない音楽に見切りをつけて別の道に進んだりした人を私は見てきました。どちらが正しいとか、良いとかはありません。ただ、演奏家という職業は、なれる人がなるのではなく、なれるまで続けた人が就けるのではないかと思っています。
また、個人的な考えですが、失敗しても、得する部分があると思うのです。なぜなら、一度失敗したら、次は失敗しないように考える材料を得られるのですから。失敗していない人には気づけないことを経験し、次に生かせるのはラッキーなことです。
考えるよりも、まずやってみる。できないなら、できるようになる方法を探す。できるまで練習する、できるように工夫する。そうやって、一歩でも半歩でも、前に進もうとする気持ちが道を拓(ひら)くのだと、私は信じています。
プロフィル
まつい・ひろゆき 1978年、埼玉・蓮田市出身。私立埼玉栄高校を卒業後、東京藝術大学で須川展也氏に師事する。東京文化会館主催の「新進演奏家デビューコンサート」オーディションに合格したほか、第8回日本クラシック音楽コンクール全国大会で第3位、第22回管打楽器コンクールで入賞。現在、「カルテット・スピリタス」「MUSIC PLAYERS おかわり団」「須川展也サックスバンド」メンバーほか、洗足学園音楽大学講師、ビュッフェグループジャパン専属講師を務める。