TKWO――音楽とともにある人生♪ ティンパニ・坂本雄希さん Vol.1
楽団のサウンドに合う音色を探して
――楽器に対する坂本さんならではのこだわりはありますか?
ティンパニのヘッド(打面となる皮膜の部分)に、本革を使用していることです。元々、ドイツのオーケストラ(管弦楽団)が奏でる、深くて温かなティンパニのサウンドが私の好みの音色でした。彼らが何を使っているかを調べてみると、ほとんどの奏者がヘッドに仔牛(こうし)の本革を使っていたのです。これに倣い、私も大学生の頃から本革のヘッドで演奏していましたが、吹奏楽団での演奏にはプラスチック製のヘッドを用いた楽器を使うようにしていました。なぜなら、吹奏楽団は大音量で演奏するものだと思い込んで、本革をヘッドに使用したティンパニでは、音色が楽団のサウンドに埋没してしまうと、敬遠していたからです。
ところが、全ての吹奏楽団が大音量で演奏し、時には「うるさいほどだ」という私の固定観念が、佼成ウインドのエキストラとして演奏に加わるようになって崩れました。佼成ウインドでは、それぞれの楽器が繊細に柔らかな音を響かせつつ、全体としても調和のとれたシンフォニックなサウンドを奏でていました。吹奏楽団に勝手なイメージを抱いていたことを反省し、佼成ウインドの演奏に生かせるティンパニの音色を真剣に探しました。
そこで再び、本革のヘッドを楽団で合わせてみたいと思い、2008年に正式に団員になってから、楽器店から本革のヘッドを張ったティンパニを借り、リハーサルで使ってみたんです。メンバーからの評判がとても良く、安心しましたね。それから楽団のティンパニのヘッドを本革に変更し、今では自分で張り替えもしています。楽器店に頼むと、見た目は美しいのですが、自分の好きな音色とは違う場合もあるので、自分の手で張るのが安心ですね。
――演奏会では、いつも開演直前までステージ上で音を調整する坂本さんの姿があります。何をしているのですか?
本革のヘッドはプラスチック製に比べるとどうしても、気温や湿度によって音程が変化しやすく、最適な音程にする、小まめなチューニング(調律=音程を合わせること)が欠かせません。湿気が多いと革が水分を含んで音程が下がってしまい、冬場は革が乾燥して、音程が上がってしまうんです。
私は、演奏会場に入ったら、まずステージへ行き、自前の湿度計をセットして一定時間内の最高湿度と最低湿度を測り、それを参考にしてチューニングします。それでも、開場するとホールの扉は開け放たれますから、ホール内に外気が入り込んできます。雨の日なら、外気は湿っていますし、お客さんの衣服も湿気を含んでいます。演奏環境が刻々と変わるので、音程を保つために開演のギリギリまで楽器に付きっ切りにならざるを得ないのです。ただ、佼成ウインドは、全国各地のさまざまな場所で演奏してきていますから、経験の蓄積により、環境の変化への対応力は相当磨かれました。
プロフィル
さかもと・ゆうき 1977年、埼玉・川越市生まれ。国立音楽大学音楽学部器楽学科打楽器専攻卒業。劇団四季「リトルマーメイド」のレコーディング、フィギュアスケートのメダリストオンアイスにティンパニ奏者として、「のだめカンタービレ」のスペシャルドラマや映画の音楽に打楽器奏者として参加した。現在、東京佼成ウインドオーケストラ、熊川哲也氏が主宰するKバレエのオーケストラ「シアターオーケストラトーキョー」のティンパニ奏者、東京音楽大学吹奏楽アカデミー非常勤講師を務める。