TKWO――音楽とともにある人生♪ クラリネット・大浦綾子さん Vol.2
コンサートでの忘れられない一幕
――これまでの演奏の中で、一番印象に残る演奏会は?
エキストラで参加した、約2週間にわたるスイスツアーです。1993年9月に9カ所で演奏しました。コンサートのプログラムは3時間もある長丁場で、休憩を2回挟むほど、ボリュームのある演奏会でした。毎回、盛大なスタンディングオベーションで幕が下がるのですが、お客さんが心から喜んで拍手を送ってくださっているのが分かり、とても幸せな気持ちでした。
このツアーの最終日でのこと。会場はフリブールという町の小さなホールでした。本番が始まる直前、さあ、いよいよ千秋楽が始まるというところで、指揮台に立ったフェネルさんは、背中に浴びる観客の視線を意に介することなく、団員に向けてスピーチを始めたのです。「今回の演奏旅行で、こうして団員が一堂に会して顔を合わせるのはこれが最後だと思う。最後に一言、みんなに伝えたいことがある。本当に素晴らしいツアーをありがとう。みんな、気をつけて家に帰って」と。英語でのスピーチでしたし、話し終えるとすぐに演奏が始まったので、その意味をしっかりと理解し、一言一言をかみしめる余裕はありませんでした。ただ、その時にフェネルさんが発した「home」という言葉の温かな響きがとても印象的でした。
コンサートが終わると、団員はそれぞれ帰国の途に就き、家族や恋人の元へと帰っていきます。それぞれの人生がある中で、佼成ウインドという楽団に集い、演奏し、ツアーを成功させて、そしてまた帰るべき場所「home」に帰っていく――その一人ひとりに対する敬意を表し、たたえるフェネルさんの温かな気遣いに、思わず胸が熱くなりました。
――その後、2001年には、団員として佼成ウインドに加わりました。大浦さんから見て、「佼成ウインドらしさ」とは何だと思いますか?
常に全力投球で演奏することではないでしょうか。小学校の体育館で音楽鑑賞教室のために演奏する時も、コンサートホールで定期演奏会をする時も、変わりありません。
オーケストラ(管弦楽団)に比べ、歴史的に新しい音楽である吹奏楽は作品の数自体が少なく、また、ベートーベン、ブラームス、チャイコフスキーなど、クラシック音楽をつくり上げてきた大作曲家による作品もありません。でも、逆に考えてみると、吹奏楽はまだまだこれから発展していく、大きな可能性を持つ音楽であるとも言えます。作品が少ないからこそ、一曲一曲の演奏が吹奏楽の歴史をつくるのだと思います。そうした意味では、おこがましいかもしれませんが、佼成ウインドが吹奏楽の歴史をつくるという気持ちでいます。だからこそ、一生懸命にやらなければならないということを、入団以来、ずっと先輩方から言われてきました。実際、そうした覚悟を楽団全体で共有し、音楽と向き合っているからこそ、常に全力で演奏をするという「佼成らしさ」が培われたと思うのです。
プロフィル
おおうら・あやこ 香川・高松市に生まれる。武蔵野音楽大学卒業、東京藝術大学大学院修了。在学中からフリー奏者として活動を始め、1990年からフランスに留学。92年、パリ12区コンセルヴァトワールを一等賞で卒業。2001年に東京佼成ウインドオーケストラに入団。10年には、デビュー20周年記念リサイタルを浜離宮朝日ホールで開催し、同時にソロアルバム「Grand Duo Concertant」をリリースした。現在、洗足学園音楽大学客員教授を務める。