TKWO――音楽とともにある人生♪ バストロンボーン・佐藤敬一朗さん Vol.3
脚光を浴びるようなソロではなく、根音(ルート音)を吹いて下支えすることに喜びを感じる佐藤敬一朗さん。一方で、目立つことになったとしても、自分から行動できる時があると話す。どんな時に普段とは違う自分になれるのか聞いた。
変化を追い求め
――音楽に対するこだわりはありますか
やっぱり常に良い音で吹きたいという気持ちが強くあります。自分で、この演奏の仕方がうまくいくかなと気づいたことはすぐに取り入れますし、レッスンを受けたい人がいたら実際に会いに行くこともします。最近も、レッスンを受けに行きました。
以前は、「自分はプロだし」という気持ちがあり、なんとなくレッスンに行きづらく、やみくもに一人で上達の方法を模索していました。そうした見えを持っていたのですが、30歳を超えてから、変化しました。ふと、これまでを振り返り、これからを意識した時に、初心に帰れたんです。
音楽って芸術であり、表現ですから自分を磨いて、自分のことをさらけ出せないと、成り立ちません。誰かに見えを張ったりせず、今の自分をありのままに表現できないと務まらない仕事です。音楽家としてこれからもやっていくのに、こんなところで意地を張っていてもしょうがない。教えてもらえる人から、教えてもらおうと意識が変わりました。今は、先達の方々から教えて頂いたことも実践して、日々、少しずつ変化があることが楽しいです。
――自ら変化を追い求められているのですね
その中で、最近、人に喜んでもらうことが好きなのだなと気づいたんです。それまでは、自分は利己的な人間だなと思っていたんですけどね。誰かが喜んでくれている時や、喜んでいる姿を想像できる時に、パフォーマンスが高まっていることに気づきました。
それは音楽だけにとどまりません。例えば、コーヒー係は、「佐藤、今日のコーヒー、すごくおいしいね」と言ってもらえると、すごくうれしいんです。もっとおいしいコーヒーを飲んでもらいたいと思って、豆を変えてみたり、同じ豆を使うにしても水と豆の比率を少しずつ変えてみたり、フィルターを違うものにしてみたり、試行錯誤しようという気持ちになるのです。
奏者としても同じです。子供たちの前で演奏する時に、楽器を紹介することがあります。そんな時は、前でたんたんと演奏するよりも、楽器を使った楽しいコントやものまねを織り交ぜ、子供たちが僕たち演奏者に親近感が湧くように努めます。子供たちの前に出る直前まで、あまり目立つことはしたくないなと思っているのですが、出番が来ると、子供たちが喜んでくれるので、ついつい全力でやってしまうんですよね。
つい最近も、ある小さな演奏会で楽器を紹介することがありました。単純に、「トロンボーンはこんな楽器です」と紹介するよりも、実際に体験してもらった方が楽しいだろうなと思って、ホームセンターでホースとカーテンロットを買って、簡単な楽器を作りました。会場で、「ちょっと体験してみたいと思いませんか? そんなあなたのために持ってきましたー! やりたい人はいますか?」と呼び掛け、体験してもらいました。
あまり目立つことが好きではなく、できるならば避けたい性格だと思っていたんですが、誰かに喜んでもらいたいという気持ちが先に来ると、いろんなアイデアが浮かんできたり、いろいろなことができるみたいです。自分でも、面白いなと感じています。そんな自分をこれからの演奏家人生にも生かしていければと考えています。