TKWO――音楽とともにある人生♪ コントラバス・前田芳彰さん Vol.3

あらゆる刺激を演奏の糧に

――求めに応える演奏ができなければならないのですね

常に演奏のレベルを高く保つことは、プロの演奏家としての大前提です。当然ながら、日頃の練習は欠かせません。練習には、技術的なことだけでなく、もう一つ重要な意味があると思っています。

実際の演奏で、正しく、優れた表現をするためには、ひらめき、直感も大事で、「今、この音を出したら、もっと良いものになる」という感覚が働くためには、やはり日頃の練習が重要です。加えて、ひらめきや直感は、無意識に生じるものですから、それまでの人生経験が大きな意味を持ってきます。

ですから、日々の練習で、どれだけ想像力を働かせて取り組んでいるか――観客の皆さんにお届けしたい美しい音色、響き、ハーモニーといったことを思い描きながら続けていく。後は、生活でのさまざまな体験ですね。練習と経験の積み重ねが自身に蓄積され、「ここぞ」という時の直感力を鍛え、演奏家としての成長を促すのだと考えています。とはいえ、美術館を訪れる時、「これは感性を磨くための練習だ!」と思って見学することはありませんよ(笑)。ただ、絵画を見て「美しい」と感じた体験も、無意識に生じる直感力に何らかの影響を与えているのは確かです。

――最高の演奏をするために、あらゆる経験を糧にしようとする姿勢が大事なのですね。最後に、吹奏楽に取り組む中高生のファンに向けてメッセージを

演奏を聴いて、楽しいと感じてもらえたら、それが一番だと思います。佼成ウインドは、全日本吹奏楽コンクールの課題曲の参考演奏を務めているからでしょうか、演奏会の観客席で、ペンとノートを手にする学生の姿を時々目にします。演奏技術を盗もう、うまくなるために学ぼう、といった懸命な気持ちがよく伝わってきます。

その意欲はとても大事ですが、管弦楽団やジャズバンド、あるいはロックバンドのライブを楽しむように、吹奏楽の演奏会も娯楽の一つとして楽しんでもらえたらという気持ちもあります。これは、フレデリック・フェネルさん(TKWO桂冠指揮者)も目指していたところだと思います。

演奏会ではぜひ、「今の音はきれいだったな」「あの音は一体何だ?」などと、ステージで奏でられる音を全身で感じ、楽しんでもらいたいですね。特に若い人に対しては、音楽だけでなく、美術、映画、写真など、ジャンルにとらわれず、さまざまな芸術に触れてほしいと思います。それが人生を豊かにすることだと思いますし、東京佼成ウインドオーケストラが楽しみの一つとして入っていたら、これほど幸せなことはありません。常に最高の演奏を追い求めながら、それと同じ、もしくはそれ以上に、聴いてくださる一人ひとりを楽しませることに全力を注いでいきたいと思います。

プロフィル

まえだ・よしあき 1963年、大阪・吹田市に生まれ、3歳の時から沖縄・金武町(きんちょう)に。桐朋学園大学音楽科ディプロマコースを経て、85年に東京フィルハーモニー交響楽団に入団。在団中、オーストリア・ウィーンに留学した。95年に同団を退団。コントラバスのソリスト、室内楽奏者、オーケストラでの客演といったフリーでの活動を経て、2001年に東京佼成ウインドオーケストラに入団した。これまでに、檜山薫、小野充、アロイス・ポッシュの各氏に師事。