TKWO――音楽とともにある人生♪ ファゴット・福井弘康さん Vol.3

伝えたい、ファゴットの魅力

――独自の活動も?

ファゴット奏者として、この楽器の力をより多くの人に伝えたいという気持ちが高まりましてね。吹奏楽の名曲をファゴットだけで吹く「Bassoon Brass Project」という企画を仲間と一緒に始めたのです。最初は一種のノリ、軽い気持ちでした。遊びでも、やはり力が入っていき、演奏動画を「YouTube」にアップロードしています。ファゴットだけでここまでできるぞ! という意気込みです。楽器のさらなる可能性を広げるために演奏をしていますので、ぜひ見てもらえたらうれしく思います。

最近はほかにも、佼成ウインドのメンバーで組んだ“東京ELEMENTS”という木管五重奏団でも活動しています。地味なイメージの木管五重奏の印象を打ち破ろうと、今は定期的に演奏会をしています。クラシックからポップス、ジャズ、アニメソングなど幅広いジャンルを開拓する――サックス四重奏や金管五重奏にも負けない、迫力ある演奏をお届けしていますので、ぜひこちらにもご来場ください。

――全国には、かつての福井さんのように、東京佼成ウインドオーケストラに憧れを抱く人たちがいます。特に、ファゴットを演奏する中高生に向けてメッセージをお願いします

ファゴットは、低音域に特徴があるため、楽団では伴奏パートを受け持つことが多い楽器です。加えて、チューバやユーフォニアム、テナーサックス、コントラバスと同じ旋律を奏でることも多く、これらの楽器よりも大きな音が出せないファゴットは、なかなか目立ちません。

そのせいで、ファゴットの本当の魅力を知らない人からは、「どうせ聞こえない」といった批判的な声も聞かれます。また、楽器の値段が高いので、学校の備品としてそう多く用意できず、演奏する人数が限られて、肩身の狭い思いをしている人もいるかと想像します。

でも、そこでめげないでください。ファゴットは、楽団の響きに、厚みを加えるという重要な役割を持った貴重な存在なのですから。

さらに、ファゴットには、さまざまな役割を担う器用さ、万能性があります。チューバのように低音でベース音を奏でる。あるいは、ホルンに合わせて裏打ちのリズムを刻む。そうした特殊能力があるので、ファゴット奏者には、幅広い表現力を物にしてもらいたいですね。英国人作曲家のフィリップ・スパークは、ファゴットを生かした曲作りがうまいことで有名です。ぜひ一度聴いてみてください。

ファゴットの魅力は、他の楽器の音に溶け合わせ、ハーモニーを広げるといった、楽団にプラスアルファをもたらすことにあります。あるメロディーを奏でる時も、ファゴットが加わって演奏するだけで、一つの楽器で奏でるだけでは生まれない豊かな音色が生まれます。他の楽器の音色を支える楽しみを味わいながら吹くと、もっとファゴットのことを好きになっていくと思います。もちろん、ソロのパートが来たら、全国の吹奏楽部のファゴット奏者を代表する意気込みで、必死にアピールしてくださいね。

他のパートの皆さんも、自分の吹く音がファゴットの音色と溶け合う心地良さを演奏の中で意識してみてください。比較的音量の小さなファゴット音を意識するには、楽団全体の音のバランスや響きを繊細に捉える“耳”を養わなければなりません。これができるようになると、楽団の響きがより一層豊かになり、一つ、演奏のレベルが上がるのではないかと僕は思います。

プロフィル

ふくい・ひろやす 1983年、北海道上川郡当麻町生まれ。昭和音楽大学卒業。ファゴットを一戸哲、太田茂、故・水間博明の各氏に師事。「第7回津山国際総合音楽祭ダブルリードコンクール」第1位をはじめ、数々のコンクールに入賞する。東京佼成ウインドオーケストラのメンバーで構成された木管五重奏ユニット「東京ELEMENTS」メンバー。昭和音大および桐朋学園大学音楽学部で非常勤講師を務める。