TKWO――音楽とともにある人生♪ ファゴット・福井弘康さん Vol.3

強い気持ちを呼び起こす師匠のひと言

――入団が決まった東京佼成ウインドオーケストラの印象は?

高校の頃は、吹奏楽部の定期演奏会の曲目を選ぶために、佼成ウインドが演奏する「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」のCDを聴きあさっていましたから、親しみと憧れを持っていました。ただ、音大に進学して以降、僕は管弦楽団で吹く機会が多く、入団が決まった時、うれしい半面、クラシック作品をはじめ、管弦楽団の演奏を前提に作られた曲を吹奏楽でどう演奏するか、不安でもありました。ところが佼成ウインドは、管弦楽団に勝るとも劣らない演奏をする――その音を改めて間近で聴き、感動したことを覚えています。

佼成ウインドでは毎回、緊張感のあるリハーサルが繰り広げられます。プロとしての演奏は難しく、ミスは許されません。しかしそれがまた良い刺激だったり怖かったり……。常に高いレベルの演奏を求められるのは、プロとして当たり前のことですが、それは想像以上のものでした。入団して9年になりました。今は仲間たちと一緒に楽しく、そして厳しく、いつも最高の演奏を追い求めています。

――プロになって、心境に変化はありましたか?

自分がファゴット奏者として憧れられるような存在でなければいけないという思いが、より一層強くなりましたね。観客の皆さんは、演奏技術だけでなく、舞台での立ち居振る舞いなど全てを含めた「ステージ」に対してお金を払ってくださっています。ですから、〈今日は来た価値があった〉と満足して家路に就いてもらう演奏、パフォーマンスをしなければなりません。そのために、日々の練習から全てにおいて、できる準備を怠らないよう心がけています。

それでも、演奏会を前にすると、ミスを恐れたり、指がしっかりと動くだろうかと不安が頭をよぎったり、過度に緊張する時もあります。強い気持ちを呼び起こしてくれるのが、大学時代、レッスンで自信なく演奏する僕に、先生が放った一言です。

「おまえの演奏は世界中で、今、ここにしか存在しない。この瞬間はおまえが一番うまいのだから、自信を持って吹け!」

当時は、〈余計なことを考えて吹くな〉と僕を一喝している程度にしか捉えていませんでしたが、今では、もっと深い意味があると感じています。

僕の音は、世界、いや、宇宙で僕にしか出すことはできません。ですから、自分の演奏の出来を誰かと比べたり、ミスを恐れて自ら緊張して消極的な気持ちになるよりも、今日、ここでの観客の皆さんとの一期一会の喜び、その人たちのために心を込め、胸を張って演奏することに集中する方が大事だと思えるのです。「今」を大切にして、ステージに立つ。先生はそうした演奏家としての心構えを教えてくださっていたのです。

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