TKWO――音楽とともにある人生♪ ファゴット・福井弘康さん Vol.3
中学2年生でファゴットとの運命的な出合いを果たした福井さんは、吹奏楽部の顧問との会話をきっかけに演奏家を志し、音楽大学に進学する。最終回では、東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)の一員になるまでの道のり、そして、ファゴットに取り組む人たちに向けたメッセージを紹介する。
コンクールとオーディションで求められるものの違い
――東京佼成ウインドオーケストラに入団するまでは、どのような活動を?
大学を卒業後、佼成ウインドに入団するまでの4年間が、演奏家として一番苦しい時期でしたね。大学在学中から、コンクールに参加し、楽団員を募集するオーディションも受けていました。コンクールに出れば、全て本選に進んでいたので、演奏家としてやっていけるのではないかという手応えはありました。しかし、楽団員募集のオーディションはいくら受けても、一次審査すら通りませんでした。大学の先生から、「楽器で食っていくためには楽団に所属しないと厳しいぞ」と言われ続けてきたので焦りが募り、されど、自分に何が足りないのかが分からず、もどかしい日々を過ごしました。
大学の先生や知り合いから演奏の仕事をもらいながら、マスタークラス(第一線の演奏家による個人レッスン)があれば受講し、コンクールとオーディションにできるだけチャレンジしました。そのうち、コンクールとオーディションでは評価する点が異なるのだと分かったのです。
ソロで挑むコンクールで、僕は失敗を恐れて縮こまった演奏をするのが大嫌いでした。それよりも、のるかそるかの攻めに徹するのが、自分のスタイルだと思っていたんです。コンクールは、技術の高さ、音の良さ、そして、自分らしさを演奏で「魅了する」ことを求められます。僕がコンクールで入賞できた時は、攻めの演奏で勝負に出て功を奏した時。その反対に、大なり小なりミスがあり、いわば、負けの演奏をすれば評価は得られませんでした。
一方、オーディションは、一緒に音楽をつくり上げるメンバーを探すことが目的です。ミスをされたら困るし、音が出るか出ないか分からないようなヒヤヒヤする演奏家は必要ありません。例えるなら、ファゴットが主役の舞台で、観客を魅了することを求められるのがコンクール。楽団を一つの作品に見立て、ファゴットに与えられた役割を確実に果たせるかを見極めるのがオーディション。僕はようやくそのことに気づき、攻めに徹した高いレベルの演奏を求める自分の持ち味を生かしつつ、ミスを減らして確実性や安定感を磨こうと決めました。
この違いを口で説明するのは簡単ですが、演奏で表現するとなると難しく、一定のレベルに達するまでに時間がかかりました。自分で課題を見つけ、一つ、また一つと克服していくうちに、一次審査に通るようになりました。そして、初めて最終審査にたどりつ着き、通過できたのが、東京佼成ウインドオーケストラだったのです。