TKWO――音楽とともにある人生♪ パーカッション・秋田孝訓さん Vol.1

 ただ叩くのが打楽器ではない

――なぜ、打楽器をやろうと思ったのですか

小学生の頃に、時々、兄たちの演奏会を聴きに行くことがありました。そこで、打楽器の動きが楽しそうだなと、見入っていました。

親から聞いた話ですが、幼い頃は、テレビでオーケストラの映像が流れると、太鼓やシンバルを叩くまねをよくしていたそうです。幼い子供って、打楽器を好きな子が多いですよね。一見すると、管楽器と違って叩けば音が出るので簡単そうで、子供も気軽に触れられます。指先だけではなく、体を使った動きのある楽器なので楽しそうでしょう?

おそらく、僕はその頃の記憶の名残で打楽器を選んだのではないか――単純な理由だったかもしれません。

――打楽器の魅力とは?

打楽器って、奏でるよりも、ただ叩くっていうイメージが強いと思うのですが、実は多様な演奏法があるんです。多くの人が想像しているよりも奥が深い。そこに魅力があります。

スラー:複数の音符を区切らずに滑らかに演奏すること

例えば、打楽器には、「スラーが無いよね」ってよく言われるんですよ。管楽器は息を吹き込み続けることによって音をつなげて演奏できますが、打楽器は一音、一音が粒となっているのでイメージしづらいのかもしれません。実際には打楽器にもスラーはあり、音をつなぐ叩き方があるんです。

ただし、楽譜にスラーが書かれていることはほとんどありません。ですから、あまり知られていないのです。打楽器以外のプロの奏者も知っている人は少ないのではないでしょうか。僕ら打楽器奏者はスコア(その曲で使われる全ての楽器の楽譜が表されている譜面)を見て、自分と合わせる楽器のアーティキュレーション(音を伸ばしたり、縮めたり、ある音から次の音にどのように移っていくかを示した記号)を、自分のパートの部分に書き写し、それに合わせて演奏しています。

また、打楽器は「叩けば音が出るのだから、叩けばいいだけだ」と誤解されがちですが、実は叩き方が重要で、それ一つで音が変わります。そこが面白く、魅力ですね。

フルートなどの演奏を、「歌うように奏でる」という言い方をすることがありますが、音階のない打楽器でもそういう演奏ができます。口ずさんで歌っているように聴こえる――音階のない打楽器もそうでないと、良い演奏とはいえません。

「叩けば何でも打楽器」なんていわれることもありますね。『新版 打楽器辞典』(音楽之友社)には、1120項目の楽器が紹介してあります。それだけ豊富なので、演奏することに飽きることはなんてありません。逆に種類が多いので、頭を抱える原因にもなります。

叩き方一つで音が変わると話しましたが、叩く箇所、叩く道具でも無数に音が変化します。さらに、スネア一つとっても、ヘッドやシェル(胴)などのパーツに使われている素材、大きさ、シェルの幅などつくりによっても音が違います。

どのスネアがこの曲に合っているのか、この場面ではどんな音が適しているかどうかは、奏者に委ねられます。楽譜には楽器の名称しか書かれていないんです。時には、指揮者から「ここはもっと鋭い音がほしい」「滑らかな感じがいい」と、要求されることもあるので、それに合うイメージの音に合わせて「ドラムの中でもこれ」「タンバリンならあれ」といったように、楽器を奏者がチョイスします。

ですから、数多くの種類を扱う打楽器奏者にとって音の記憶は重要です。どの楽器が適しているかどうかは、これまでに聴いた音の記憶の中から探り出さなければなりません。奏法だけでなく、そういった経験と力量も求められるので、楽器の種類が多いというのは魅力的な半面、大変さでもあります。

プロフィル

あきた・たかのり 1984年、横浜市生まれ。2013年、東京佼成ウインドオーケストラに打楽器奏者として入団した。このほか、ミュージカルやジャズ、アーティストのライブサポートなどジャンルを問わず活動中。寺田由美パーカッションアンサンブル「ドライヴ」、「くぼった打楽器四重奏団」、ラテン系ビッグバンド「Monaural Banquet Orchestra」、「Blossom」、「東京R合奏団」各メンバー。「侍Big Band」を主宰している。