食育――頭と身体にいい話 順天堂大学医学部助教・李玉棟氏

ところで皆さんの中には、「やる気が起きない」「疲れが取れない」といった倦怠(けんたい)感に悩んでいる人はいませんか。そんな人は一度、ビタミンB1不足を疑ってみてもいいかもしれません。

ビタミンB1は、栄養素間の相互作用として、食品に含まれる糖質から人間の活動に必要なエネルギーを作る働きがあります。ですから、これが不足すると、摂取した糖質をエネルギーに変えることができません。このために疲れやすくなり、集中力も低下してしまうのです。激しく運動したり、勉強で頭を使ったりすることでエネルギーを多く消費する人は積極的に補いましょう。

ビタミンB1を多く含む食品は豚肉、ウナギ、落花生、大豆、玄米などで、特に多く含むのが豚肉です。牛肉よりも10倍くらい豊富な豚肉は、夏バテ予防に効果的です。

さて、ここからは食と心について話します。皆さんは、心の健康に重要な働きをしているのが腸内細菌だと言われたら意外に思うかもしれません。

腸内細菌は、人間の腸管の中におよそ1000種類、100兆個以上生息しているといわれています。その役割は「病原体の侵入を防ぎ、排除する」「食物繊維を消化し、短鎖脂肪酸を産出する」「ビタミン類の生成をする」「ドーパミンやセロトニンを合成する」「腸粘膜細胞とともに、免疫力の70%を作り出す」の五つです。中でも注目したいのが「ドーパミンやセロトニンを合成する」という役割。この二つは脳内伝達物質で、ドーパミンは私たちのやる気を起こさせ、セロトニンは喜びや楽しみを伝える働きをします。

特にセロトニンのほとんどは脳内で作られるのではなく、最初に腸管で腸内細菌によってアミノ酸から合成され、それが脳に送られて初めて作用します。人間の感情や気持ちを決定する「幸せホルモン」のセロトニンは、腸管で作られるのです。

この細菌は食物繊維を好んでエサにしているので、心の健康を保つためにも、食物繊維をしっかりと摂りたいものです。

それでは、さらに食事をする時の気持ちの持ち方について考えてみましょう。

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