【NPO法人日越ともいき支援会代表・吉水慈豊さん(僧侶)】社会全体で支え、受け入れて 外国人労働者と共に生きる
制度の問題点を多面的に見直し、適切な労働環境を
――日越ともいき支援会の具体的な取り組みとは
昨年までは一時保護が多かったのですが、現在は再就職や帰国の支援が中心です。この他にも、日本語教育やメディア対応などさまざまな活動をしています。
技能実習制度では、企業に不正があった場合などに同業種に転籍できます。また、法務省はコロナ禍でいち早く、不当解雇された技能実習生などが在留資格を「特定活動」に変更し、異業種でも働ける「雇用維持支援」を実施しました。こうした再就職の支援に必須なのが、受け入れ企業から受けた理不尽な待遇を表す証拠です。相談時には、不当な対応を証明する写真や動画、音声を記録するよう必ず伝えています。
証拠がそろったら、機構に報告して該当企業に対する行政指導や技能実習生の受け入れ停止をしてもらいます。労働基準監督署にも申告し、未払い分の賃金請求などの対応をお願いしています。同時に、出入国在留管理庁に所属の変更を申請し、新たな監理団体、受け入れ企業とつなげています。
しかし、受け入れ企業による賃金未払いやハラスメントなどが全国的にまん延しているわけではありません。働く環境を整え、労働者の権利を守り、適切な労使契約を結んでいる企業は多くあります。
北海道稚内市のある水産会社は、40人を超えるベトナム人技能実習生を雇用していますが、失踪者は一人もいません。仕事はハードですが、先輩実習生が仕事や生活上のルールをしっかりと伝え、また宿舎には寮母さんがいて何でも相談できる環境を整えています。
千葉県にある別の企業では、月収が手どり25万円ほどある上、エアコンやWi-Fiを完備した部屋を用意しています。支援会を通して15人ほど紹介していますが、連絡すると皆が生き生きと働いていることが分かります。
実習生を安価な労働力としてではなく、一緒に働く「人間」として受け入れ体制を整えている企業は多いです。全ての実習生が充実した生活を送れるよう、実地調査を重ね、劣悪な企業に実習生を送らないようにすることが大事です。
また、技能実習生が来日の際に負う借金を問題視する声もありますが、それをゼロにしても根本的な解決には至らないでしょう。賄賂を上乗せした100万円以上の借金などは問題ですが、ベトナムで法定の35万円くらいは優良な送り出し機関に払い、一定の水準まで日本語や一般生活の知識を習得しないと来日後に苦労します。借金返済という目標が働く意欲にもつながります。技能実習制度にはさまざまな問題がありますが、破綻しているとは感じませんので、多面的な視点で丁寧に課題点を見直すことが大事だと思います。
19年には、国が労働力不足を補うため外国人の受け入れを認めた「特定技能」が創設されました。この制度は、技能実習と違い同一職種であれば転職可能です。しかし、自己都合で退職すると在留資格変更許可を本人が一から再申請する必要があります。それに沿うと認可に約半年かかる上、期間中は就労不可です。これで転職を認めているといえるでしょうか。
加えて、企業が労働者を直接雇う形なので退職後の支援を一切しません。こうした制度上の問題がありながらも、国は特定技能による外国人労働者の受け入れ拡大を目指しています。技能実習のように監理組織に紐(ひも)づけるか、次の受け入れ企業と労使契約を結ぶまでは就労可にするなど、柔軟な対応が必要だと感じます。
――外国人労働者が置かれる状況を知ることが大切ですね
技能実習などの外国人受け入れ制度や在留資格は複雑で、全てを理解するのは難しいと思います。しかし、コンビニに並ぶ弁当作りやAmazonの仕分け作業、農業や漁業など多くの職場で外国人が骨身を惜しまず働いてくれているからこそ、現在の便利な社会が成り立っています。このことを私たちはしっかりと理解し、感謝を表す必要があります。共に生きる仲間から助けが届けば、すぐに対応しなければいけません。
犯罪を起こす外国人がいることも事実ですが、それは日本人も同じです。また、犯罪までに至った背景にある貧困や孤独などの問題にも目を向ける必要があります。路頭に迷う人がいなくなるような支援をすれば、おのずと犯罪は減っていくはずです。
肌の色や話す言葉が違っても、同じ人間として一緒に仲良く生活する――少子化が進んだ日本社会で今、どのように外国人労働者を受け入れるかが問われています。
プロフィル
よしみず・じほう 1969年、埼玉県生まれ。大正大学卒業後、96年に浄土宗の伝宗伝戒道場を成満し、僧侶となる。2013年、ベトナム戦争をきっかけにベトナム人支援を始めた父が住職を務めた浄土宗寺院で、自身も在留ベトナム人支援活動を始める。ベトナム人技能実習生、留学生などが若くして命を落とすことに憤りを感じ、『命と人権を守る』支援活動を本格化。20年にNPO法人日越ともいき支援会を設立し、代表に就任。