【WCRP/RfP日本委理事長・戸松義晴さん】平和への一歩につながる行動を共に――非暴力訴え、祈り続けて

世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会の新理事長に、戸松義晴・浄土宗心光院住職(浄土宗総合研究所副所長)が選任された。戸松氏は、仏教徒でありながら、ハーバード大学神学校において応用神学、生命倫理学を学び、神学修士号を取得。その経験を活かして医学部で教壇に立ち、生命倫理の講義を英語で行いながら、いのちの尊厳と日々向き合っている。また、全日本仏教会理事長、日本宗教連盟理事長を歴任し、日本の宗教界をけん引してきた。このたびのWCRP/RfP日本委理事長就任にあたり、諸宗教協力の意義や今後の活動について聞いた。

どの宗教も人間の幸福を願う心が基にある

――新理事長に就任し、どのように感じられていますか

今年6月に初めて理事のお役を頂戴(ちょうだい)しましたが、以前からWCRPのことは存じ上げていました。特に、東日本大震災の際、現地にスタッフが移住し、被災者に寄り添うという“現場性”を大事にしていたことに対し、尊敬の念を抱いておりました。

WCRPでは、世界の宗教者が集まり、祈って終わりなのではなく、諸宗教者が協力して祈りを具体的な形にしています。日本委員会では核依存や気候危機、人身取引防止など、タスクフォースを立ち上げて行動しています。そうして、劇的な答えは出なくても、その積み重ねが社会に変化をもたらしていくのだと思います。

1970年に創立され、以来、諸宗教者が協力し、さまざまな平和活動を成し遂げてきました。歴史と伝統があり、多くの先人たちが平和のために尽くしてきた中、その思いを継いで、私も平和のために精いっぱい尽力させて頂きます。

――WCRP/RfPは諸宗教協力の団体ですが、その意義とは

昨今、多様性という言葉をよく耳にします。宗教の分野でも、自身の信仰する宗教以外も認め合うということを続けてきました。しかし、その歴史は浅く、例えばカトリックは60年代に初めて諸宗教者との対話に臨みましたが、それまでは他の宗教を邪教としていました。

ある教えに救われた人が、他の人にも救われてほしいと思ってその教えを勧めることや、救われた教えに固執して他の教えを受け入れられなくなることは、宗教の特質としては少なくありません。しかし、仏教では全てのものは相対的に存在していると説かれています。だとしたら、他の宗教も仏教と同じように、教義があり、正当性があるのですから、それに優劣をつけず、ありのままに受け入れて協力していく。そこには、「どの宗教も人間の幸福の願いの基にある」という思いがあります。

認めるということは、相手を知ることから始まります。WCRPの中でも、常に互いを知る時間を大切にしています。9月下旬に第1回東京平和円卓会議が行われ、日本委員会の理事長として、初めて国際会議に出席しました。顔を合わせて、語り合うということが、改めて互いを知るためにとても重要なことだと実感しました。会議の間のフリートークで海外のイスラム教の方が、「仏教には神はいないのか」「仏像とは何なのか」と興味を持って、質問をしてくださいました。出会って、コミュニケーションを通じて、相手の文化を知り、思いを知ることが、平和への一歩につながるのです。そうして、「あの人はどうしているのだろう」という思いが行動原理となる。まさに宗教はそこが大事なのです。

私たちは政治家でも、会社員でもありません。損得勘定や合理性、効率性ではなく、いのちの尊厳を守り、平和を願い、その理念を共有して、そのために何ができるのかを思考し、行動し続けるのです。

――今、宗教者が平和のためにできることとは何でしょうか

さまざまありますが、その一つが「平和」の視点を持った社会づくりです。現在、日本では、周辺諸国との関係性の中で、武力への関心が高まっています。そんな時、WCRP日本委は、宗教界はどうするべきでしょうか。

祈ったところで他国に攻撃されて死んでしまうかもしれない。和解といったって、相手は話し合いに応じてくれないかもしれない。それでも、暴力には賛同しない。それはなぜか。宗教はその長い歴史において、平和と非暴力を根幹にして教えを伝えてきたからです。それが崩れれば、信頼は失われ、宗教は無くなってしまう運命なのだと思います。

私も理事長のお役の話を頂いた時にとても悩み、自身に改めて問いました。私にも家族がいます。武力闘争の中で、その家族を守るために、武力を持って守ることに賛同するのか。しかし、私は仏教徒です。その教えで非暴力が説かれているのですから、どんな状況であっても武力を盾にはしません。

日本でも、国防のために先制攻撃や核シェアリングといった話が上がり、防衛費が増加する動きが出ていますが、第二次世界大戦と同じ過ちを繰り返さないように、せめて私たちは違う価値観で、平和に、いのちの尊厳にプライオリティーを置き、平和を伝え続け、行動し続けていく必要があります。それには、「ブラックボックス」と呼ばれるような宗教の内向的な面を改め、自分たちの教えや活動を開示し、それらがどのように社会に支えられているのかを発信することも大切です。法令を遵守(じゅんしゅ)し、情報公開、説明責任を尽くして、社会の人々と信頼関係を築かなければ、私たちの声も届きません。

また、宗教者だけでなく、具体的な手だてを講じられるNPOや福祉団体などと協力して、平和のための努力を惜しむことなく続けていきたいです。

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