【NPO法人日越ともいき支援会代表・吉水慈豊さん(僧侶)】社会全体で支え、受け入れて 外国人労働者と共に生きる

NPO法人日越ともいき支援会の吉水慈豊代表のスマホには、SNSを通して毎日10件以上の“SOS”が届く。少子高齢化による労働力不足が顕在化する日本で働く、ベトナム人の技能実習生などからだ。コロナ禍の中で不当解雇に遭い、家を失って路頭に迷うケースもあるという。同支援会では、彼らが安心して暮らせるよう、生活の補助、受け入れ企業や監理団体との交渉、外国人技能実習機構への相談、再就職支援など多岐にわたるサポートを行う。吉水代表に、ベトナム人技能実習生たちの現状、外国人労働者の受け入れ制度などについて話を聞いた。

人道意識に欠ける一部の人が技能実習生を追い詰める

――ベトナム人技能実習生たちが置かれている状況とは

浄土宗の寺院で住職を務めていた父が1960年代にベトナム人僧侶たちの支援を始め、私も一緒に活動していました。その後、東日本大震災で被災した在留ベトナム人を支援したことで生活相談などが増え、2020年からNPO法人日越ともいき支援会として活動しています。日本で働くベトナム人の在留資格は「留学生」「技術・人文知識・国際業務」などさまざまですが、近年、主要な送り出し国が中国からベトナムに変わり、急増しているのが「技能実習」です。日本で学んだ知識や技術を母国で生かしてもらう「国際貢献」を目的として1993年に創設されましたが、実態は少子化による労働力不足を補うために機能しています。

ベトナムは開発途上国で、平均年収は日本の10分の1ほどです。「労働力輸出」を政策に掲げており、日本でためたお金を基に身を立てたい、故郷に家を建て親孝行したいと願う若者は多くいます。私たちが支援した中にも、技能実習生として日本で真面目に働き、錦を飾った人はたくさんいます。

一方、夢を抱いて訪れた日本で、企業から賃金の未払いやセクハラ、パワハラなどを受ける人が後を絶ちません。秋田県で働くある実習生は、時給299円での残業を強いられていました。別の実習生は、養豚場の入り口にある休憩所のような場所に住まわされ、水道からは汚水しか出ない状況でした。また、コロナ禍の中で、日本語をよく理解できないことに付け込まれて言葉巧みに解雇され、住居を失い、保護を必要とする人も増えています。

実習生は原則として自己都合による転職が認められず、また送り出し機関に払う手数料を借金しているため、我慢して働き続けるしかない。それでも耐え切れなくなった人や、再就職先を求めて逃げ出してしまった人などがSNSで助けを求めてきます。中国人やフィリピン人などと違い、ベトナム人は最近になって来日する人が急増したため、国内に共助コミュニティーが育っておらず、SNSしか頼るものがないのです。

劣悪な労働環境に置かれ、助けを求めるベトナム人の話を聴く吉水氏

彼らが直面する問題の要因はとても複雑です。多額の借金を負わせる、日本で働くための事前教育を十分に行わないといった質の悪い送り出し機関、書類上の審査だけで企業の技能実習生雇用を支援する監理団体、実習生を「安価な労働力」としか見ない企業――自らの利益のみを追求した人道意識に欠ける一部の人たちが、ベトナム人の若者を追い詰めています。

2017年、実習生の相談や援助などを目的に、外国人技能実習機構が設立されました。今年4月には援助課が新設されて、問題のある企業、監理団体に対する行政指導などを行っています。しかし、本人が直接相談に行かないと対応しないため、日本語能力の低い実習生が自身の状況や企業の蛮行を証拠と共に伝えるのは難しいです。また、支援までに時間を要するため、強制帰国となるような緊急性の高い場合、私が現地に駆けつけて保護することもあります。これまでに約1000人を保護し、2万人以上を帰国や再就職までサポートしてきました。

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