【コミュニケーション戦略研究家・岡本純子さん】人とのつながりは人生の糧 誰もが孤独を癒やす存在
人々のつながりが希薄になった現代では、「孤独」が深刻な社会問題となっている。2021年2月、内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」が新設され、国による対策が講じられるようになった。しかし、新型コロナウイルスの流行で、孤独に苦しむ人々の状況はむしろ悪化していると言える。身心を蝕(むしば)み、貧困や自死の原因にもなり得る孤独。長年、中高年男性の孤独を研究してきた岡本純子さんに、孤独に陥らない生き方について聞いた。
コミュニケーションの欠如 特に深刻なのが中高年男性
――日本人の孤独の特徴について教えてください
日本では、孤独死といった「物理的な孤立」が、ニュースなどに取り上げられます。しかし、この問題の根幹はそこではなく、仕事や利便性、自由を求め都市に人口が集中した結果、地縁・血縁の希薄化が進み、コミュニケーションの欠如によって「誰ともつながっていない」という精神的な孤独に苦しむ人が増加しているところにあります。
米国の心理学者の研究によると、人は孤独になると他人を信用しにくくなるといわれています。孤独によって心が閉ざされ、周囲と親しい関係を結ぶことが困難になる、そんな悪循環に陥るのだと思います。家族や友人だけでなく、社会そのものと離れてしまうことで、貧困や自死といった問題にもつながっていくと言えるでしょう。
全ての人が孤独のリスクを抱えていますが、特に深刻なのが中高年の男性です。OECD(経済協力開発機構)の調査によれば、日本人男性では「友人や同僚もしくはほかの人々と時間を過ごすことのない人」の割合が、21カ国中トップとなっています。
日本人男性には「職場」か「家庭」かの選択肢しかない人が多く、妻がいるか否かで、人生の満足度が影響されるのです。さらに、日本人の自死についての統計を見ると、40代~60代男性の自殺率が最も高くなっています。妻に先立たれた夫の精神的ショックは非常に大きいと聞きますが、それは社会から取り残されたような孤独感が生きる意欲をそぐからでしょう。
一方、女性は育児や仕事、趣味を通じて、親密でしっかりした仲間の輪を広げていく傾向にあります。このように、価値観や生き方の違いから、いつの間にか夫と妻の間には、社会性や人間関係に著しい差が生じてしまうのです。
――なぜ、日本人男性は孤独に苦しむのでしょうか
雇用制度を筆頭にした社会の仕組み、男性特有の価値観や気質が原因と思われます。企業が正社員を定年まで雇用し続ける終身雇用は、男性に「自分の存在価値」「生きがい」を与えました。それ故に、定年を迎えて職場を去ることは、人間の根本欲求である「人に認められたい」「必要とされたい」という承認欲求を満たしてくれた「居場所」を失うことを意味します。お酒を飲みながら同僚と語り合う、男性にとってリフレッシュとなる大切な時間も奪われる。そうかといって、新たな居場所を見つけることは簡単ではありません。働き盛りといわれる世代は仕事の忙しさに加え、出世を目指して懸命に働いていて、社外活動に時間を割くことなどできない。定年後に何をすればよいのか思いつかない男性は少なくありません。
さらに、「男らしさ」という伝統的な価値観が男性を孤独にさせる要因として挙げられます。かつて「男は黙って……」というキャッチフレーズがはやったように、寡黙で弱音を吐かずに強くある姿が男性の美徳とされました。その文化の下では、〈思いを言葉にして伝える〉力を養う機会はほとんどなく、必要もないと思われていました。しかし今、家庭でも社会でも、人とつながるためにコミュニケーションは不可欠。その力を培ってこなかった中高年男性が、どうしても孤独に苦しむのです。
――政府による実態調査(昨年12月~今年1月)では若者も孤独感を深めています
調査結果では、孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は20代と30代が高く、「相談相手や同居人を持たない」「未婚」という傾向が見られました。これは、家庭や学校、会社の中でしか人とのつながりを持ったり、維持したりできないことを示しています。長引くコロナ禍の影響で、多くの企業が在宅勤務を実施しています。一人暮らしの新入社員や若年層が、同僚や友人と対面で会う機会を失い、孤独感を募らせているのでしょう。
家庭や学校、会社とのつながりを絶たれると、たちまち孤独に陥ってしまう状況は、中高年男性が抱える問題と本質的には同じです。家庭や会社に代わる居場所を持つことが重要だということです。
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