【関西大学教授・串崎真志さん】繊細さは豊かな内面がある証し その特性を発揮して自分らしく

人に気を使い過ぎて疲れる、周りのささいな言動に動揺する、匂いや音が気になる――。近年の研究で、こうした繊細な感覚を持つ人が、およそ4人に1人の割合で存在することが分かってきた。心理学で「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン=繊細な人)」と呼ばれる彼らは、環境の変化に敏感なためストレスを抱えやすいが、一方で高い共感力や想像力を併せ持ち、他者の気持ちに寄り添えるポジティブな力もあるという。臨床心理学の観点からHSPを研究する関西大学の串崎真志教授に、HSPと呼ばれる人の特徴や、繊細な性格をうまく活用し、一人ひとりが自分らしく生きていくための方法を聞いた。

調和を重んじる特有の文化 人間関係が複雑化する日本

――HSPと呼ばれる人の特徴は何ですか?

HSPとは、一言でいうと「繊細な性格特性が高い人」のことです。ここで言う「繊細さ」とは、元々は光や音、匂いといった周囲の刺激に敏感で、環境の変化に慣れにくい性質のことを意味していました。それが、1990年代から研究が進む中で、ほかにも多くの特徴を併せ持つことが明らかになりました。大まかにまとめると、「物事を深く考える」「物事を豊かに感じる」「共感性が高い」「気持ちが揺れやすい」といった性格です。

現在は、これらの特徴の全て、もしくは一部に当てはまる人がHSPと呼ばれています。定義が広く、病気や障害の一種と間違われやすいのですが、HSP自体は個人の性格のバリエーションの一つです。「内気」や「引っ込み思案」と同じように、生まれ持った性格と言えます。

――HSPの人が日常的に感じる悩みや生きづらさには、どのようなものがありますか

日本では2018年ごろから、書籍やメディアを通じてHSPが注目され始めましたが、その中でよく取り上げられるのが、「人に気を使い過ぎて疲れる」という悩みです。具体的には、職場の上司の顔色をいつもうかがうとか、不機嫌な人が近くにいると落ち着かない、周りのささいな言動に動揺してしまう、などの例が挙げられます。また、匂いや音に対する感覚が過敏なため、人混みや雑踏が苦手で、人といると疲れやすいという方もいます。

こうした性質を持つ子供が思春期に差しかかると、学校の集団生活になじめないまま、無理に登校して体調を崩したり、場合によっては通えなくなったりすることもあります。学校に通えなくなる子供たちの理由や背景には、一定の割合でHSPが関係しているように思います。

人間関係の悩みが共感を集めるのには、集団主義を重んじる日本特有の文化があると考えています。2007年に「KY(空気が読めない)」という言葉が流行しましたが、日本の社会は昔から、他者に対する気遣いを強く求める傾向にありました。特に、SNSが登場し、リアルタイムに多くの人と関わり合う状況が生まれ、コミュニケーションの取り方が複雑になった現代では、その傾向がより顕著になっています。「人に気を使わないといけない」「場違いな言動をしてはいけない」といったプレッシャーが強まり、繊細な人は特に息苦しさを感じているのです。

さらに、現在は新型コロナウイルス感染症の話題をはじめ、暗いニュースに触れる機会が多くなっています。繊細な人の中には、人の気持ちに敏感なため、苦しんでいる人のことを思って自分まで苦しくなるという、いわゆる「共感疲労」に悩む人もいます。HSPの傾向が高いほど共感疲労しやすいという研究データもあります。

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