【ノンフィクション作家・柳田邦男さん】問われる原発事故の教訓 徹底的な検証を今こそ

失敗から学ぶ姿勢

――事故の背景には多くの課題があるのですね。

歴史的に、日本という国は失敗と向き合い、教訓から学ぶことを避ける傾向にあります。失敗や問題があっても、既定の方針や政治目的を遂行するために、負の要因に蓋(ふた)をして隠してしまうのです。

1939年に、旧日本陸軍がソ連軍に敗れた「ノモンハン事件」後の対応は象徴的です。この事件は、その後の戦争で失敗を重ねていく最初のものなのですが、敗退の事実は隠され、陸軍の弱点の分析はなされないまま、太平洋戦争に突入していきます。また、開戦の半年後、日本海軍は、ミッドウェーでの米海軍との戦いで大敗北を喫します。この敗戦の原因を分析し、責任の所在を明らかにして、戦略戦術を根本から見直すべきだったのに、失敗の究明も責任の追及も行われないまま、次の作戦でまた失敗する。

戦後、最大の公害病・水俣病でも、国は原因究明を曖昧(あいまい)にして、被害の拡大を止めませんでした。今回の原発事故も、巨大津波を否定するような政治、行政の判断があったのは確かで、「失敗から学ばない」というこの国の負の文化の延長線上に起きたと、私は分析しています。

福島の事故から根本的な教訓を読み取るには、原発の技術的な問題を検討するだけでなく、深刻な影響を受けた被害者・住民の視点に立って安全対策の欠陥を検証し、安全なシステムは可能なのかを検討しなければなりません。そのためには分析のための基本データとして、福島における「人間の被害」と「環境の被害」の全容調査が不可欠です。「安全神話」を生み出し、専門家からの指摘を軽視し、楽観論を掲げてきた政治や行政、電力業界に対する歴史の検証も必要になります。

――国民一人ひとりの姿勢も問われていると感じます。

そうですね。物事を分析的に、事態によって批判的に見る文化が根付かないと、同じ過ちが繰り返されます。世界が震撼(しんかん)した原発事故でありながら、全容調査はいまだ行われていません。一方、再稼働や原発輸出が既定路線のように進められ、国民の関心も薄れています。

ただ、国のあり方を注視し、意思表示していこうという人々の芽生えも感じています。一昨年、安全保障関連法案が国会で審議されている最中、とりわけ若い人たちが行動を起こしましたね。国の行方や自分たちの未来を案じる一人ひとりの問題意識と主体的な行動こそが新たな文化を育て、社会を変えていくと思います。

プロフィル

やなぎだ・くにお 1936年生まれ、栃木県出身。95年に『犠牲(サクリファイス)――わが息子・脳死の11日』(文藝春秋)などで菊池寛賞、2005年に『エリカ 奇跡のいのち』(講談社)で日本絵本賞翻訳絵本賞受賞。16年に、佼成出版社から『自分を見つめる もうひとりの自分』を発刊した。

『自分を見つめる もうひとりの自分』
人生には悲しみがつきまとう。伴侶を失う、子供に先立たれる、災害で心に深い傷を負うなど、時に想像もつかない出来事に見舞われることもある。本書は、平坦でない人生を歩む全ての人に向け、優しいまなざしで「本来の自分」を取り戻せるようにとつづったエッセー集。「佼成」に連載された全33話が著者による「雲の写真」とともに一冊になった。
(佼成出版社 本体1200円+税)