バチカンから見た世界(31) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

トランプ政権を支持する 極右勢力とキリスト教原理主義(2)

トランプ米大統領は8月18日、スティーブン・バノン大統領首席戦略官を解任した。バノン氏は極右思想のウェブサイト「ブライトバート」の経営者で、排他的な「米国第一主義」を推進し、昨年の大統領選でトランプ大統領を勝利に導く立役者となった人物だ。メキシコ国境での壁の建設、特定のイスラーム諸国からの入国制限、気候変動に対する国際協調からの離脱といった大統領の政策に、バノン氏の極右思想が強く影響を与えていた。解任の理由は、政権内部での深刻な対立とのことだが、今回の件が、これからの政策に、どのような影響を与えていくかが注目されている。

同大統領は22日、メキシコと国境を接するアリゾナ州フェニックスを訪問。支援者集会で、「国を再建する時だ。われわれの国民の仕事のために闘う」と米国第一主義を強調し、国境での壁の建設は「絶対に必要だ」とアピールし、政権の政策に変わりがないことを改めて表明した。

さらに、バノン氏の排外的なイデオロギーの中には、「バチカンとの対峙(たいじ)」も含まれていた。今年2月7日付の「ニューヨーク・タイムズ」は、『スティーブ・バノンの、中枢に対するもう一つの強力な闘い――バチカン』と題する記事を掲載。この中で、ローマ教皇フランシスコは移民、気候変動、貧困といった問題への自身の対応によって、世界の指導者として前例のないほどの人気を得ていると指摘した。これに対し、極右思想のキリスト教原理主義者たちは、「教皇が危険なほどに間違った示唆を受けている。彼は社会主義者かもしれない」とのバノン氏の主張を分かち合っていると報じた。

西欧では現在、伝統的なキリスト教の価値観が失われ、世俗化が進む中で、イスラームが押し寄せて社会を覆い尽くすのではないかといった危機感を多くの人が抱いている。こうした西欧の状況を踏まえて、同紙は、バノン氏の考えを次のように説明した。「急進的な『解放の神学』や社会主義を信奉する教皇(フランシスコ)」、あるいは「マルクス主義に影響を受けたカトリック教会」ではなく、「伝統的なキリスト教の価値観と、イスラームの介入に反対するために立ち上がる、他の指導者」を求めてローマに在住し、バノン氏の求める右派の“教会の闘争者”としての神学を分かち合う「戦略的同盟者」を探すこと――これが首席戦略官の狙いだったというのだ。戦略的同盟候補者の中には、「貧者の選択」をし、移民の保護やイスラームとの対話を掲げ、離婚経験者や同性愛者にも門戸を開くといった現教皇の改革に反対する米国人のレイモンド・バーク枢機卿の名も出てくる。

教皇は今年1月22日、トランプ大統領に対して「彼の実績によって判断する」「彼が何を実現するかを見守っていく」という見解を示し、その後、バチカンもこの姿勢を崩していない。一方、バチカンは、米国の極右勢力とキリスト教原理主義からの挑戦に対し、同国務省の意向を踏まえて刊行される雑誌「チビルタ・カトリカ」(「カトリック文明」の意、7月15日発刊)に掲載された『福音的原理主義とカトリックの政教一致主義』と題する記事を通して応答した。

教皇に忠誠を誓うイエズス会によって刊行される同誌は通常、バチカンの公式見解を反映すると受け取られている。上記の記事に関しては、教皇フランシスコや国務省長官のピエトロ・パロリン枢機卿から直接の指示があったものと判断されている。筆者は、同誌のアントニオ・スパダロ編集長(神父)と、アルゼンチン人のプロテスタント神学者ながら、教皇によってアルゼンチン版のバチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」の監修役に任命されたマルセロ・フィグエロア氏。二人はこれまで、「米国の極右キリスト教原理主義者の論理を、排他的なイスラーム原理主義の論理と同一視」して非難している。