バチカンから見た世界(113) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

ローマ教皇フランシスコは9月11日、開催に先立ち、同フォーラムに関するメッセージを公表していた。教皇は、災害をもたらしている「気候変動」という言葉を比喩的に使い、「宗教界においても悪質な“気候変動”が天(神)を脅かしている」と警鐘を鳴らした。「『聖』を(悪の)道具とする暴力の炎が拡散している」状況を憂いてのことだ。「この40年間、聖性と友愛のオアシス(憩いの源泉)であるべき礼拝の場が標的になり、約3000回の攻撃を受け、5000人が亡くなった」と指摘し、「聖なる神の名を侮辱し、兄弟を迫害する者たちが、あまりにも簡単に資金源を見いだす」と現状を非難した。

ハンガリーとスロバキアの訪問を終え、帰着直後、市内の聖マリア・マジョーレ教会『ローマ市民救済の聖母画像』の前で感謝の祈りを捧げる教皇(バチカンメディア提供)

その上で教皇は問題解決に向けて、「諸宗教の指導者、政治指導者、学術界の代表者たちが、共に基本的人権、特に信教の自由の尊重と擁護を訴えていくこと、そして戦争と憎悪によって多くの死と偽りがもたらされた場所で、一致と和解に向けた対話に取り組んでいくことが重要」であり、「世界の諸宗教が本質的な役割を果たしていかなければならない」と強調。人類全体の友愛を実現していくためには、「『天』という視点を失ってはならない」とし、真の宗教性は「神を礼拝し、隣人を愛すること」と述べた。

さらに教皇は、「人々を憎悪によって扇動するために、偽りの神の名を使ってとめどなく過激な説教をする者たちがいる」と世界の現状を踏まえ、諸宗教の指導者に向けてメッセージを発し、「悪に対しては悪と、恐れずに偽ることなく指摘することが真理に奉仕することであり、特に同じ信仰を持つ人間の悪行に対しても非難していかなければならない」と訴えた。

その理由として教皇は、過激主義や無知はあらゆる文化の中に存在するが、「信仰体験を人間の原始的な側面に限定させ、傷つきやすい者の魂を(利己的な)過激主義に従うように誘(いざな)うからだ」と説明。特に、貧困が蔓延(まんえん)し、教育の機会を得られない人々が多く暮らす地域では、過激主義者による暴力に支配されやすいと述べた。

また、教皇は「祈りの場で犠牲となった人々に対する共通の記憶(記念日)」の制定を提唱し、「暴力を受けた兄弟姉妹たちの記憶を新たにすることで、人類を分裂させようと試みる憎悪の言葉に対抗していこう」と呼びかけた。加えて、「信仰者が暴力に対して武器で対処することはない」と断言し、「悪に対抗する力は、スローガンではなく祈り、復讐(ふくしゅう)ではなく合意、武力行使という安易な道ではなく、連帯を構築するための忍耐強く建設的な努力にある」と明示。現代の国際社会でキーワードとなっている平和(Peace)を、「G20のアジェンダである『3P=People(人民)、Planet(地球)、Prosperity(繁栄)』に加えるように願う」と述べ、メッセージを結んだ。

9月21日の「国際平和デー」に際し、国連のアントニオ・グテーレス事務総長がメッセージを発表した。この中で、「私たちは平和を選択しなければならない。なぜなら、破壊された私たちの世界を修復する唯一の選択肢だからだ」と呼びかけ、「世界中の兵士たちが武装を放棄し、一日の停戦を実行するように願う」と訴えた。