利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(5) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

意識を相手に合わせてチューニング

伝統ある宗教には、歴史の中で蓄積されてきた先人たちの深い洞察が秘められている。自分が学んで培った宗教的識見に照らして考えれば、より善い生き方が導けるはずだ。もっとも、応答に時間がかかってしまうと場がしらけるかもしれないから、あまりゆっくりと考えることはできない。それでも、間違えたことを言わないように宗教的な智慧を引き出して活用することが必要だ。

そもそも自分もどうしたらいいか分からないなら、踏み込んでアドバイスをすることは難しいだろう。もっと研鑽(けんさん)を積む必要があるかもしれない。逆に、教えから見て相手の考え方や行動が間違っているように感じたり、「このように考えて行動した方が、善い結果になる」と思ったりするかもしれない。踏み込んで話す勇気が必要になることもあるだろう。

とはいえ、そのままストレートに話せばいいというわけではない。悲しいことに、率直に自分の意見を言ってしまうと、相手が反発して険悪になり、言わないよりも悪い結果になってしまうこともある。そのような時には、オブラートに包んで言う方が賢明だし、あえて何も言わずに様子をみる方がいいこともある。この判断にも、思考力が必要だ。それも智慧の一つである。

話す場合にも、語り方が次の大事なポイントになる。相手の知識や心境に応じて「語る」ことだ。いきなり高度な深い話をしても、相手は分からずに嫌悪感を抱くかもしれない。だから、意識を相手に合わせてチューニングする必要がある。聖典に残されているキリストや仏陀の話し方はとても分かりやすい。たとえ話などが多用されているのも、このためだろう。

最後に、対話を振り返ることを勧めたい。対話の最中は時間がないのでうまく応答できないこともあるだろう。相手の言葉に深い意味があって、その場では十分にはとらえられないこともあるはずだ。事後に思い出しつつ内容をかみしめ、不十分だった点を反省する。自分というものから離れて相手や第三者、さらには上空のように高い視点から見るように思い返せれば理想的だ。その積み重ねによって、さらに有意義な対話を行うことが可能になっていくのである。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。