『望めど、欲せず――ビジネスパーソンの心得帳』(4) 文・小倉広(経営コンサルタント)

「悩みが多くて眠れません」

「仕事、家庭、友人・知人との関係……、なぜこんなに問題ばかり……」と思うことはありませんか?

私もその一人。人生「思い通りにならない」ことばかりです。

しかし、悩むことはあまりありません。かつて、心理学や東洋哲学、仏教などを学ぶ前は、毎晩のように悩んでばかりいたのですが、勉強をし、試行錯誤しながらそれを試していくうちに、悩むことがほとんどなくなってしまったのです。

「そんなことあるわけない!」と思われるかもしれません。いえいえ、本当にそうなのです。今回は、皆さんにその秘訣を一つお教え致しましょう。

フロイト、ユングと並ぶ心理学三巨頭の一人、アルフレッド・アドラーは不眠症に悩む女性から相談を受け、このように助言をしました。

「奥さま、今夜、もしまた眠れなかったとしたら、明日、ご主人にどんなステキなことをしてあげられるかを考え、そして、翌朝、私に電話をして教えてくださいませんか」

翌朝、夫人はアドラーに電話をかけてきて言いました。

「なんてことでしょう。アドラー博士。何もお伝えすることがありませんの。私は昨晩、ぐっすり眠れたのです!」

アドラーはこのように教えています。「翌日に誰かを喜ばせることを考えれば、神経症は治る」と。

アドラー心理学では「あらゆる悩みは対人関係の悩みである」と考えます。そして、人生の課題、悩みは「共同体感覚」と呼ばれる「自分と同じか、それ以上に相手を大切にする感覚」が足りないから起きる、と考えたのです。ですから、誰かを喜ばせることをすればそれだけで悩みは消え、神経症は治る、と言ったのです。

古今東西、不思議なもので、宗教家であり思想家であった一燈園を創始した西田天香先生の最後の弟子といわれる石川洋先生もまた、これと極めて近い教えを伝え続けました。「五つの『自戒』」です。

「つらいことが多いのは感謝を知らないからだ 苦しいことが多いのは自分に甘えがあるからだ 悲しいことが多いのは自分のことしかわからないからだ 心配することが多いのは今を懸命に生きていないからだ 行きづまりが多いのは自分が裸になれないからだ」※

詰まるところ、人生の悩みのほとんどは「自分のことしか考えていないから」起きるのだ、と言うのです。

もし、悩みがあったなら。行き詰まることがあったなら。自分のことばかり考えるのをやめて「誰かを喜ばせること」を考えてみてはどうでしょうか。確実に悩みが消えることをお約束します。少なくとも不眠症は治るはずです。先にお伝えした夫人のように。

※引用元 『叶力』(石川洋著、サンマーク出版)

(参考文献  G・J・マナスター、G・ペインター、D・ドイッチュ、B・J・オーバーホルト編、柿内邦博、井原文子、野田俊作訳『アドラーの思い出』創元社、2007年)

プロフィル

おぐら・ひろし 小倉広事務所代表取締役。経営コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラーであり、現在、一般社団法人「人間塾」塾長も務める。青山学院大学卒業後、リクルートに入社し、その後、ソースネクスト常務などを経て現職。コンサルタントとしての長年の経験を基に、「コンセンサスビルディング」の技術を確立した。また、悩み深きビジネスパーソンを支えるメッセージをさまざまなメディアを通じて発信し続けている。『33歳からのルール』(明日香出版社)、『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『比べない生き方』(KKベストセラーズ)、『僕はこうして、苦しい働き方から抜け出した。 』(WAVEポケット・シリーズ)など著書多数。